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ある女子社員の話

あなたがそこに ただいるだけで その場の空気が あかるくなる
あなたがそこに ただいるだけで みんなのこころがやすらぐ
そんなあなたに わたしもなりたい――

 
 これは詩人の相田みつをさんによる言葉です。確かに、そんな素敵な雰囲気をもった人って時々いますよね。まさに花のような存在。自分もそんな人になりたいと思うものの、とても難しいことです。それより、この言葉に接してまっさきに思い出すのが、かつて同じ職場にいた一人の女子社員のことです。といっても、短大を卒業して入社後2年目くらいの二十歳になるかならないかの若い女の子です。
 
 彼女がいたのは私とは別の部署でしたが、それでも何かの用事で、しばしば私の部署にやって来ていました。そして、ドアを開けて入ってくる彼女は、いつも決まって満面の笑顔なんです。ちょっと気恥ずかしそうな、かといって作り笑顔とかでなく、心の底から醸し出されているような自然で気持ちのよい笑顔。しかも、視線を落とすことなく、しっかりとみんなの顔を見つめながら。
 
 不思議なことに、彼女が部屋に入ってきた瞬間から、何の言葉を発しなくとも、場の雰囲気がパッと明るくなります。迎えるみんなも当然に優しい笑顔。私の席は入口の正面を向いていましたから、いちばん初めに気づきます。それまでのしかめっ面が即効でにこにこ顔になりそうなのを無理に抑えようとして、思わずプッと噴き出してしまうありさまです。もちろん彼女は笑顔だけでなく話す際もとても快活で、相田さんの言葉にあるような、本当に魅力的な人だったと思います。
 
 と、ここまでは大して珍しい話ではありませんが、実は彼女は腕にひどい傷を負っていました。手首あたりから二の腕にかけて、紫色のケロイドのような大きな傷痕がありまして、最初に見たときはあまりのひどさに目が凍りつくほどに驚いたものです。人づてに聞いたところでは、子どものころに自動車にはねられて大怪我をし、そのときの傷痕なんだそうです。
 
 寒い季節は長袖を着るので問題ないのですが、彼女は、夏の暑い季節になっても、それを全く隠そうとはしません。ほかの女子社員と同じ半袖の制服を着ているのです。ひんぱんに来客のある職場でしたし、まして年ごろの女の子ですから、人に見られたくないと思うのが普通でしょう。ところが彼女は実に堂々としている。傷痕などないかのように自然にふるまっているのです。
 
 このことについても誰かから聞きまして、彼女が遭った事故は、死んでいてもおかしくないほどの大きな事故だったそうです。彼女が言うには、自分があの時に死ななかったのは、腕が一身に傷を受けて守ってくれたからだと、だから、腕の傷に感謝することはあっても、疎ましく思う気持ちなどは全然ない。だから夏でもきちんと半袖を着ている、というのです。
 
 何という気高い気持ちのありようでしょうか。彼女の得も言われぬ温かな笑顔は、そうした心の内から湧いてくるのだと、はたと思い当たった次第です。また、こういう人こそが周りの人を幸福にする、また、過去にひどい事故に遭ったとはいえ、これから先、自ら幸福を追いかけなくとも、幸福のほうが勝手についてくるんだろうなと感じます。

ペットの死

 皆さまはペットを飼っていらっしゃいますでしょうか。しかし、死ぬのが嫌だからペットを飼うのは嫌だという人もいます。確かに、可愛がっていたペットの死、とても辛いですね。しかし、天寿を全うし、安らかに死んだのであれば、それはそれで大いなる喜びにすべきという考え方もあるでしょう。

 限りあるのが命ですから、動物にとっても、与えられた命を全うし、まして可愛がってくれたご主人に看取られて終わるのは最高の幸せのはずです。ですから、見送る側も「これまでありがとう、よかったね」と、きっぱりとした充足感をもって臨んだらいいのではないでしょうか。

 数多いペットの中でも、とりわけ犬の愛と健気な心ほど美しいものはありませんね。私も犬は大大大好きです。それにしても、彼らの寿命はわずか十数年と短い。犬の最大の欠点は寿命が短いことだと言う人もいるくらいです。なぜそんなに短いのか。そんな疑問に対して、大親友だった犬をがんで失った少年が答えた言葉があります。

「人間はみんな生まれてきてから、人を愛したり、幸せな人生を送る方法を覚えるんでしょう? でも犬は、生まれたときからもうすでにその方法を知っているから、長く生きる必要がないんだよ」

 何と素敵な言葉でしょうか。さらに、西洋にはこんなことわざがあります。

子どもが生まれたら犬を飼いなさい。
子どもが赤ん坊のとき、子どもの良き守り手となるでしょう。
子どもが幼年期のとき、子どもの良き遊び相手となるでしょう。
子どもが少年期のとき、子どもの良き理解者となるでしょう。
そして、子どもが青年になったとき、
自らの死をもって子どもに命の尊さを教えるでしょう。


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タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない。
 
〜レイモンド・チャンドラー
いいことはおかげさま
悪いことは身から出たさび
 
〜相田みつを
あなたが犬を飼う前は、犬との生活がどんなものであるかは全く想像できない。犬を飼った後は、それ以外の生活を想像することはできない。
 
〜キャロライン・ナップ
石鹸の味がどのようなものかを知らない人は犬を洗ったことがない。
 
〜フランクリン・P・ジョーンズ
犬は私たちの生活の全てではないが、私たちの生活を完全なものにしてくれる。
 
〜ロジャー・A・カラス

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