『詩経』
陟彼岵兮
瞻望父兮
父曰嗟予子
行役夙夜無已
上慎旃哉
猶来無止
陟彼屺兮
瞻望母兮
母曰嗟予季
行役夙夜無寐
上慎旃哉
猶来無棄
陟彼岡兮
瞻望兄兮
兄曰嗟予弟
行役夙夜必偕
上慎旃哉
猶来無死
彼(か)の岵(こ)に陟(のぼ)りて
父(ちち)を瞻望(せんぼう)す
父は曰(い)へり 嗟(ああ)予(わ)が子よ
行役(こうえき)には夙夜(しゅくせき)して已(や)むこと無からん
上(ねが)わくは旃(これ)を慎(つつし)みて
猶(なお)来(き)たりて止(とど)まること無かれ、と
彼(か)の屺(き)に陟(のぼ)りて
母(はは)を瞻望(せんぼう)す
母は曰(い)へり 嗟(ああ)予(わ)が季(き)よ
行役(こうえき)には夙夜(しゅくせき)して寐(い)ぬること無からん
上(ねが)わくは旃(これ)を慎(つつし)みて
猶(なお)来(き)たりて棄(す)つらるること無かれ、と
彼(か)の岡(おか)に陟(のぼ)りて
兄(あに)を瞻望(せんぼう)す
兄は曰(い)へり 嗟(ああ)予(わ)が弟(おとうと)よ
行役(こうえき)には夙夜(しゅくせき)して必(かなら)ず偕(とも)にせよ
上(ねが)わくは旃(これ)を慎(つつし)みて
猶(なお)来(きた)たりて死すること無かれ、と
【訳】
あの岩山に登って、遠く故郷の父を望む。父は言った。「ああ、我が子よ、軍役に従うなら、集中して朝夕怠ってはならない。よくよく体に気をつけて、そしてきっと戻ってくるのだ、いつまでもその地にいたまま戻って来ないなどあってはならない」と。
あの緑の山に登って、遠く故郷の母を望む。母は言った。「ああ、我が末の息子よ、軍役に従うなら、ろくに寝ることもできないことだろうが、集中して居眠りなどしてはいけない。よくよく体に気をつけて、そしてきっと戻っておいで、捨てられずに」と。
あの岡に登って、遠く故郷の兄を望む。兄は言った。「ああ、我が弟よ、軍役に従うなら、集中して同僚とうまくやれ。ともに行動するのだ。よくよく体に気をつけて、そしてきっと帰ってこいよ、決して死んではならない」と。
【解説】
軍役に召集された若い兵士が、故郷にいる父、母、兄を思う詩です。「陟岵(ちょくこ)」は険しい岩山に登ること。同じ山を「岵」「屺」「岡」と言い分けており、それぞれに厳格な父、優しい母、思いやりのある兄を思う気持ちをうたっています。「夙夜」は、朝早くから夜遅くまでの意の「しゅくや」とも読みますが、ここでは、恐れ謹んでの意の「しゅくせき」と読みます。
『詩経』は、305編からなる中国最古の詩集で、孔子が編集したといわれます。風(諸国の民謡)・雅(宮廷の音楽)・頌(祭礼の歌)の三部からなっており、風は国風ともいい、周南・召南・邶(はい)・鄘(よう)・衛・王・鄭・斉・魏・唐・秦・陳・檜・曹・豳(ひん)の15に分かれ、雅は大雅・小雅の二つに分かれ、頌は周頌・魯頌・商頌の三つに分かれています。
これらの詩を孔子は、「詩三百、一言以てこれを蔽(おお)わば、曰く、思い邪(よこしま)なし」と評しており、純朴な心情を詠ったものが多くあります。また、『詩経』に収める詩は四言詩を基本とし、韻は踏みますが、句数、平仄などの形式は定まっていませんでした。
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