『文選』
冉冉孤生竹
結根泰山阿
與君為新婚
菟絲附女蘿
菟絲生有時
夫婦會有宜
千里遠結婚
悠悠隔山陂
思君令人老
軒車來何遲
傷彼蕙蘭花
含英揚光輝
過時而不采
將隨秋草萎
君亮執高節
賤妾亦何為
冉冉(ぜんぜん)たる孤生(こせい)の竹(たけ)
根(ね)を泰山(たいざん)の阿(くま)に結(むす)ぶ
君(きみ)と新婚(しんこん)を為(な)すは
菟糸(とし)の女蘿(じょら)に附(つ)くがごとし
菟糸(とし) 生(しょう)ずるに時(とき)あり
夫婦(ふうふ) 会(かい)するに宜(よろ)しきあり
千里(せんり) 遠(とお)く婚(こん)を結(むす)び
悠悠(ゆうゆう)として山陂(さんび)を隔(へだ)つ
君(きみ)を思(おも)へば人(ひと)をして老(お)いしむ
軒車(けんしゃ) 来(きた)ること何(なん)ぞ遲(おそ)き
傷(いた)む 彼(か)の蕙蘭(けいらん)の花(はな)
英(えい)を含(ふく)みて光輝(こうき)を揚(あ)ぐ
時(とき)を過(す)ぎて采(と)らずんば
将(まさ)に秋草(しゅうそう)に随(したが)いて萎(しお)る
君(きみ) 亮(まこと)に高節(こうせつ)を執(と)らば
賤妾(せんしょう) 亦(ま)た何(なに)をか為(な)さん
【訳】
たおやかな一本の竹が、泰山のふもとに根を張っています、そんな私が、あなたと結婚することになったのは、菟糸が女蘿にまといつくようなもの。菟糸にも生える時があるように、夫婦にも睦まじく過ごすべき時があります。
それなのに、私たちは、千里を離れての夫婦となり、二人の間は山坂にさえぎられています。あなたのことを思うと老い衰えていくばかり。迎えのお車はいつ来るのでしょうか。
かの蕙蘭の花は、麗しさを内に秘めて外に光り輝いています。誰も摘み採るものがなければ、秋の草とともにやがてしぼんでしまいます。あなたはきっと節義を守ってくださるはず。私ごときには、このうえ何をすることもできません。
【解説】
『文選』は、六朝時代の梁の昭明太子が側近の文人らの協力を得て編集した詩文集です。30巻からなり、春秋戦国時代以降の800余の文章・詩・賦が収録されています。この詩は『古詩十九首』の其の八で、睦まじくあるはずの新婚夫婦が、何らかの事情で遠く離れ、一人で暮らす新妻の寂しさと不安をうたった詩です。ずっと会えずにいると若々しい美しさが衰えてしまいますと甘えつつ、あなたを信じて待ちますと、けなげな気持ちを吐露しています。
〈冉冉〉はたおやか、しなやかなさま。〈阿〉は山の麓、入り組んだ所。〈菟絲〉はつる草の一種のネナシカズラで、〈女蘿〉もつる草で松などに寄生するサルオガセ。どちらもしっかり根を張らない植物であることから、夫婦生活の不安定さを譬えているか。〈軒車〉は大夫以上の乗用車。〈蕙蘭花〉はかぐわしい花。〈英〉は麗しさ。〈高節〉は心他に移さず貞操を守る意。〈賤妾〉は女が自らを遜って呼ぶ語。
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