柳宗元
千山鳥飛絶
万逕人蹤滅
孤舟蓑笠翁
独釣寒江雪
千山(せんざん)鳥(とり)飛(と)ぶこと絶(た)え
万逕(ばんけい)人蹤(じんしょう)滅(めっ)す
孤舟(こしゅう)蓑笠(さりゅう)の翁(おう)
独(ひと)り釣(つ)る寒江(かんこう)の雪
【訳】
どの山からも鳥の姿が見えなくなり、どの道にも人の足跡がない。小舟がただ一つ、蓑笠をかぶった老人が、ただ独り釣糸を垂れている、雪の降る、寒々とした川で。
【解説】
20歳で科挙に合格した柳宗元は、中央のエリート官僚として腕をふるい、将来を期待されていましたが、33歳のとき政争に巻き込まれて永州(現在の湖南省永州市)に左遷されてしまいました。永州は湘水と瀟水が合流する要衝の地で、漢代から郡役所が置かれてはいましたが、異民族が住む亜熱帯で、文化的にも気候的にも中央から隔絶された僻地でした。この詩はその地で詠んだものとされます。雪のみの白一色の風景に点じる一つの黒い影、淡い水墨画の風景が彷彿とされ、わびしさ、寒さがひしひしと伝わってきます。独りで黙々と釣り糸を垂れる老人の姿に、孤立を恐れることなく毅然と生きる自身のイメージを重ねているのかもしれません。
五言絶句。「絶・滅・雪」で韻を踏んでいます。〈江雪〉は川に降る雪の意。〈千山〉は多くの山々。〈万径〉は多くの道。〈人蹤〉は人の足跡。〈蓑笠〉は稲わらなどで編んだ雨具。〈寒江〉は寒々とした川。起句と承句が対になっており、また、各句の最初の文字が「千・万・孤・独」というふうに、すべて数に関する字になっています。
冬を主題とした詩の傑作として知られ、柳宗元の代表作として第一に挙げられる作品です。さらにこの『江雪』の詩は、その情景の高い写実性から、中国絵画の伝統的な画題「寒江独釣」を成立させました。馬遠(南宋)、牧谿(南宋)、朱端(明代)、張路(明代)など多くの画家が、寒江独釣図を描いています。また、柳宗元は、詩のみならず散文にもすぐれ、韓愈(かんゆ)とともに古文復興に尽力し、「唐宋八家(とうそうはっか)」の一人に数えられるなど、中唐屈指の存在でありました。
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