『文選』
明月皎夜光
促織鳴東壁
玉衡指孟冬
衆星何歴歴
白露沾野草
時節忽複易
秋蝉鳴樹間
玄鳥逝安適
昔我同門友
高挙振六翅
不念携手好
棄我如遺跡
南箕北有鬥
牽牛不負軛
良無磐石固
虚名複何益
明月(めいげう)皎(こう)として夜(よる)に光り
促織(そくしょく)東壁(とうへき)に鳴く
玉衡(ぎょくこう)孟冬(もうとう)を指し
衆星(しゅうせい)何(なん)ぞ歴歴(れきれき)たる
白露(はくろ)野草(やそう)を沾(うるお)し
時節(じせつ)忽(たちま)ち複(ま)た易(か)わる
秋蝉(しゅうせん)樹間(じゅかん)に鳴き
玄鳥(げんちょう)逝(さ)りて安(いず)くにか適(ゆ)く
昔(むかし)我(わ)が同門(どうもん)の友(とも)
高く挙(あ)がりて六翅(りくかく)を振(ふ)るう
手を携(たずさ)えし好(よしみ)を念(おも)はず
我(われ)を棄(す)つること遺跡(いせき)の如(ごと)し
南には箕(き)北には斗(と)有(あ)り
牽牛(けんぎゅう)軛(くびき)を負(お)わず
良(まこと)に磐石(ばんじゃく)の固(かた)きこと無くんば
虚名(きょめい)複(ま)た何の益(えき)かあらん
【訳】
月が夜空にこうこうと輝き、こおろぎが東の壁の下で鳴いている、北斗七星の柄は初冬の方角を指し、多くの星々が連なってきらめいている。
白露が野草を潤し、時節はたちまち移り変わる、秋の蝉がいまだ樹間に鳴いているが、燕はどこかへ飛び去ってしまった。
私の昔の同門の友は、いまは出世して羽振りが良い。しかし、かつて共に手を携えて学んだことを忘れ、私を足跡のように見捨てて顧みようとしない。
夜空の南には箕の星があり、北には北斗七星があるが、どれも名ばかりで実が伴わない。牽牛星も軛を負って牛車を牽(ひ)こうとしない、磐石のような堅固な友情がなければ、朋友という虚名だけで何の益もない。
【解説】
『文選』は、六朝時代の梁の昭明太子が側近の文人らの協力を得て編集した詩文集です。30巻からなり、春秋戦国時代以降の800余の文章・詩・賦が収録されています。この詩は『古詩十九首』の其の七で、季節の移ろいに寄せて、青春時代の友情があせていく恨みを述べたものです。また星になぞらえ、北斗七星や牽牛星などがその名に相応しくないように、内実の伴わない友は虚名に過ぎないとうたっています。
〈皎〉は白く輝くさま。〈促織〉はこおろぎ。〈玉衡〉は北斗七星の柄の部分にあたる第五星。〈孟冬〉は冬の初め。〈秋蝉〉はつくつくぼうし。〈玄鳥〉は燕。〈六翅〉は羽翼、高く羽ばたくの意。〈遺跡〉は後ろに残した足跡。〈軛〉は牛の頭にかけて車を引かせる頸木。〈盤石〉は巨大な石。
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