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漢詩を読むがんばれ高校生!

碩鼠(魏風)

『詩経』

碩鼠碩鼠
無食我黍
三歳貫女
莫我肯顧
逝将去女
適彼楽土
楽土楽土
爰得我所

碩鼠碩鼠
無食我麦
三歳貫女
莫我肯德
逝将去女
適彼楽国
楽国楽国
爰得我直

碩鼠碩鼠
無食我苗
三歳貫女
莫我肯労
逝将去女
適彼楽郊
楽郊楽郊
誰之永号

碩鼠(せきそ) 碩鼠(せきそ)
我(わ)が黍(きび)を食(く)う無(な)かれ
三歳(さんさい)女(なんじ)に貫(つか)えしに
我(われ)を肯(あ)えて顧(かえりみ)る莫(な)し
逝(ゆ)きて将(まさ)に女(なんじ)を去(さ)りて
彼(か)の楽土(らくど)に適(ゆ)かん
楽土(らくど) 楽土(らくど)
爰(ここ)に我(わ)が所を得(え)ん

碩鼠(せきそ) 碩鼠(せきそ)
我(わ)が麦(むぎ)を食(く)う無(な)かれ
三歳(さんさい)女(なんじ)に貫(つか)えしに
我(われ)を肯(あ)えて徳(とく)する莫(な)し
逝(ゆ)きて将(まさ)に女(なんじ)を去(さ)りて
彼(か)の楽国(らくこく)に適(ゆ)かん
楽国(らくこく) 楽国(らくこく)
爰(ここ)に我(わ)が直(ちょく)を得(え)ん

碩鼠(せきそ) 碩鼠(せきそ)
我(わ)が苗(なえ)を食(く)う無(な)かれ
三歳(さんさい)女(なんじ)に貫(つか)えしに
我(われ)を肯(あ)えて労(ろう)する莫(な)し
逝(ゆ)きて将(まさ)に女(なんじ)を去(さ)りて
彼(か)の楽郊(らくこう)に適(ゆ)かん
楽郊(らくこう) 楽郊(らくこう)
誰(たれ)か之(もっ)て永号(えいごう)せん

【訳】
 大ねずみよ、大ねずみ、私の育てた黍を食べないでくれ。三年あなたに仕えてきたが、あなたは私を顧みることがなかった。さあ、今こそあなたの下から去り、あの楽土へ行こう。楽土や楽土、そこで私の居場所を得よう。

 大ねずみよ、大ねずみ、私の育てた麦を食べないでくれ。三年あなたに仕えてきたが、あなたは私に情けをかけてくれなかった。さあ、今こそあなたの下から去り、あの楽国へ行こう。楽国や楽国、そこで私ものびのび生きられよう。

大ねずみよ、大ねずみ、私の育てた苗を食べないでくれ。三年あなたに仕えてきたが、あなたは私を労うことがなかった。さあ、今こそあなたの下から去り、あの楽郊へ行こう。楽郊や楽郊、そこへ行けば誰が嘆くことがあろう。

【解説】
 詩題の『碩鼠』は大ネズミのことで、一般には、搾取する貪欲な領主にたとえ、重税に苦しむ人民の詩として詠まれています。「三年仕えてきたけれど今こそあなたの下を去ろう」というのは、三年に一度、戸籍調査が行われ、その時は住居の移動が許されたから、と説明されます。しかしそうではなく、この詩は、三年間一緒に暮らした男に宛てた別れの歌であるとの解釈もあります。女が、飯を食うばかりでぐうたらな男を捨てて、もっと楽しい土地へ行ってしまおうと詠っているのだと。詩中の「顧・徳・労」の語が、いずれも男女間の愛情を表現する言葉なのです。

 四言古詩。〈三歳〉は三年間、または長い間。〈女〉は、あなた。〈楽土〉は安楽に住める土地。〈楽国〉は楽しい国。〈直〉は、のびのび生きられる、正しく生きられる。〈楽郊〉は安楽な土地。「郊」は郊外。〈永号〉は嘆き叫ぶ。

 『詩経』は、305編からなる中国最古の詩集で、孔子が編集したといわれます。風(諸国の民謡)・雅(宮廷の音楽)・頌(祭礼の歌)の三部からなっており、風は国風ともいい、周南・召南・邶(はい)・鄘(よう)・衛・王・鄭・斉・魏・唐・秦・陳・檜・曹・豳(ひん)の15に分かれ、雅は大雅・小雅の二つに分かれ、頌は周頌・魯頌・商頌の三つに分かれています。
 これらの詩を孔子は、「詩三百、一言以てこれを蔽(おお)わば、曰く、思い邪(よこしま)なし」と評しており、純朴な心情を詠ったものが多くあります。また、『詩経』に収める詩は四言詩を基本とし、韻は踏みますが、句数、平仄などの形式は定まっていませんでした。

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漢詩の名句

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~『絶句』(杜甫)

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~『尋胡隠君』(高啓)

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~『鹿柴』(王維)

頭を低れて故郷を思う
~『静夜思』(李白)

孤雲独り去って閑なり
~『独坐敬亭山』(李白)

春眠暁を覚えず
~『春暁』(孟浩然)
 
~春風春水一時に来る
~『府西池』(白居易)

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~『将東遊題壁』(釈月性)

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~『述懐』(魏徴)

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~『山行』(杜朴)

年年歳歳花相似たり
~『代悲白頭翁』(劉廷芝)

花は錦官城に重からん
~『春夜喜雨』(杜甫)

独り釣る寒江の雪
~『江雪』(柳宗元)

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~『清明』(杜朴)

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灯火親しむべし
~『符読書城南詩』(韓愈)

白髪三千丈
~『秋浦』(李白)
 
万緑叢中紅一点
~『詠柘榴』(王安石)

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~『李夫人』(白居易)

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