菅原道真
去年今夜待清涼
秋思詩篇獨断腸
恩賜御衣今在此
捧持毎日拜余香
去年の今夜 清涼(せいりょう)に侍(じ)す
秋思(しゅうし)の詩篇(しへん) 独(ひと)り断腸(だんちょう)
恩賜(おんし)の御衣(ぎょい) 今 此(ここ)に在り
捧持(ほうじ)して毎日 余香(よこう)を拝す
【訳】
思えば去年の今夜、清涼殿の宴にはべり、帝(みかど)から戴いたお題「秋思」に対して詠んだ私の一編の詩を思い出すと、深い悲しみがこみあげてくる。お褒めを戴き、ご褒美に賜わった御衣は今も手元にあり、それを毎日捧げ持っては、あのときのお姿を偲んでいる。
【解説】
菅原道真が九州太宰府に流されたときの作です。前年9月9日の重陽節(菊花の宴)の翌10日、清涼殿で催された詩会で、道真は「秋思」という詩を詠みました。「十分な奉公もかなわないまま、徒に年を取ってしまった」というような意味の詩でした。そして、藤原一族からねたまれて冤罪を蒙り、今は都を遠く離れてしまった身にありながら、なお帝の厚い恩徳に感動しているのです。
七言絶句。「涼・腸・香」で韻を踏んでいます。〈清涼〉は清涼殿で、天皇が日常を過ごされる場所。〈秋思詩篇〉は道真が清涼殿で詠んだ「秋思」という詩。〈断腸〉は腸がちぎれんばかりの悲しい思い。〈恩賜御衣〉はそのときに天皇から賜った御衣。〈捧持〉は捧げ持つ。〈余香〉は御衣に焚きしめた香の残り香。
【PR】
→目次へ
がんばれ高校生!
がんばる高校生のための文系の資料・問題集。 |