オペラのストーリーの主流を占めるのは、何といっても様々に渦巻く男女の恋愛模様でありますね。そんなオペラ作品を数多く残した作曲家と、まったく書かなかった作曲家がいます。その違いの理由は何だろうと考えてみますに、好き嫌いもあったでしょうけど、やはり作曲家自身の恋愛経験の度合いが大きく影響したのではないかという気がします。オペラを書くに際しては、実際の恋愛の成功や失敗を通じて、男女関係の「機微」をいかに深く理解しているかが重要だった?
たとえば、オペラ作品が1曲もないブラームスは、25歳のときに婚約した相手がいたにもかかわらず「私は結婚に踏み切れない」といって自ら破棄し、一生独身を通しましたし、「オペラをつくるのは結婚するより難しい」との言葉まで残しています。若い時は超イケメンでしたから、ずいぶんモテたようなんですが・・・。同じくオペラを書かなかったブルックナーは、もともと文学的素養が乏しかったともいわれますが、恋愛においては10代の少女ばかりを愛し、結局一度も実らなかった(9回フラれたって)。
ベートーヴェンも、片思いは何度か経験したものの、生涯独身を通した人です(彼もすごくモテたという話もありますが)。彼は、モーツァルトの不倫ドタバタ劇『フィガロの結婚』やプレイボーイの『ドン・ジョヴァンニ』、恋人スワッピングの『コシ・ファン・トゥッテ』などをひどく毛嫌いしていたそうで、それでも自分もオペラを書かなきゃと思ったのか、いろいろ台本を探して『フィデリオ』という美しい夫婦愛を謳ったオペラを一つだけ残しています。男女のことに関しては、とにかく真面目一辺倒だったのか、あるいは恋愛経験が乏しいゆえに、不倫だとかプレイボーイとかを受け容れることができなかったのかもしれません。
もっとも、この3人の事例のみで、恋愛経験が乏しい作曲家はオペラが書けなかったと決めつけるのは早計でしょう。それ以外の事情があったかもしれない。さらに有名なオペラを残した作曲家のすべてが深い恋愛経験を経ているかどうかも定かではありませんし、大恋愛をしたのにオペラを書かなかった作曲家もいますからね。ただ、少なくとも上述の3人については、勝手な想像ではありますが、オペラを書かなかった理由が何となく分かるような気がします。
そういえば、全く違う話ですが、昔、今はメガバンクといわれている某都市銀行では、「独身者は支店長になれない」という不文律が長らく存在していたと聞きました。「結婚」という大切な人生経験、プロセスを経ていない独身の支店長では、妻子のある部下たちへの細やかな配慮ができない、あるいは多くの部下を掌握し統べるための人情の機微に欠ける、もっと厳しく言えば、人生のある意味での「資格者」たりえないという思惑があったようです。
さすがに今ではそうした差別的なルールは廃されたようですが、でも全く理解できない話ではありません。今もなお、ただちに古臭い理不尽な考え方だとは断じえない、依然としてそういう面は少なからずあると感じます。かつて城山三郎さんがおっしゃっていましたが、やはり、一人の男が孜々営々と仕事をこなし、伴侶を見つけて家庭を築き、妻子をかかえて暮らしていくというのは、人間としての重みと確かさが認められてよいことのはずです。独身を通しオペラ作品を書かなかった作曲家について思いを寄せたとき、ちょっと思い出した話です。
【PR】
●おもなオペラ作品
マスカーニ | カヴァレリア・ルスティカーナ |
モンテヴェルディ | ポッペーアの戴冠/ウリッセの帰還/オルフェオ |
モーツァルト | ドン・ジョヴァンニ/魔笛/フィガロの結婚/コシ・ファン・トゥッテ/皇帝ティートの慈悲/後宮からの逃走/クレタ王イドメネオ |
ワーグナー | トリスタンとイゾルデ/タンホイザー/ローエングリン/ニュルンベルクのマイスタージンガー/ニーベルングの指環/パルジファル |
ヴェルディ | ドン・カルロ/椿姫/オテロ/ファルスタッフ/シモン・ボッカネグラ/リゴレット/アイーダ/トロヴァトーレ |
プッチーニ | ラ・ボエーム/トゥーランドット/蝶々夫人/トスカ |
ビゼー | カルメン |
R・シュトラウス | ばらの騎士/サロメ |
ロッシーニ | セビリアの理髪師/ウィリアム・テル |
ウェーバー | 魔弾の射手 |
ドビュッシー | ペレアスとメリザンド |
【PR】
【PR】
(マスカーニ)
【PR】
→目次へ