昭和時代の古い話ですが、若い時分によく読んでいた『間違いだらけのクルマ選び』という本があります。元レーシング・ドライバーで自動車評論家の徳大寺有恒さんが、各メーカーの自動車を批判的に評論したもので、〇〇年版というふうに毎年新しく刊行されていました。「間違いだらけの・・・」という言葉が流行語になったほどに大人気となり、私も当時の若者のご多分に漏れずクルマ好きでしたから、ずいぶん熱心に読んでいたものです。
しかし、徳大寺さんによる評論の内容たるや、まことに辛辣、過激で、たとえば「ユーザーが正しく判断したら、この陳腐さではこれだけの商売はできないだろう」とか「こんなクルマでも見捨てずに買ってくれるユーザーがいるというのだから、ただ感心するばかり」など、相手がトヨタだろうが日産だろうが、もうけちょんけちょんに書いているわけです。あんなヒドイことを書いて、自身の身の安全は大丈夫なのかと心配するほどでしたもん。
実際、刊行当初は自動車メーカーからかなり強い反発があったようです。しかし、だいぶん後になると、テレビ番組で各メーカー技術者と一緒に出演し、個々のクルマの出来具合について、いろいろ議論を交わしたりアドバイスしたりしていましたからね、メーカーにとっては切磋琢磨というか、よい刺激になって品質向上に繋がったという面はあるんじゃないでしょうか。ユーザーにとっても、けっこう勉強になる有難い存在だったと思います。そうした文化が次第に根づいていったのか、徳大寺さんが亡くなった後も、クルマに関しては巷間、割とリベラルに評論されていると感じます。
それに比べて、オーディオに関する評論はどうか。実はこれがかなり悩ましいところでして、いろんなオーディオ誌なんかを読みますと、いずれのメーカーの機器もみんな褒めている。しかも、それぞれに切り口を変えて述べているので比較もしにくい。徳大寺さんのような厳しい批判は皆無で、ネガティブな意見があったとしてもまことに婉曲的。「ベスト・バイ・コンポ」として推奨されている組み合わせは何通りもあり、結局どれが本当のベストなのか分からない。何のことはない、各メーカーを均等に扱った広告やカタログのようなものです。
まーでも、徳大寺さんのケースがむしろ例外であって、オーディオ評論家さんたちもメーカーから仕事をもらっている以上、褒めなきゃいけないのは理解できます。あからさまな悪口を書こうものなら、次から仕事が来なくなりますからね。それが普通というか仕方ないこと。だけども、実際に本人に会って話を聞くと、決して本には載せられない「〇〇社の製品はホントにどれも音が△△なんだよねー」みたいな本音が聞けるそうですよ。
どなたか勇気のある評論家さんが『間違いだらけのオーディオ選び』って書いてくれないものでしょうか。でも、オーディオ・ファンそのものの人数が少ないから、あまり売れないですかね。
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