『詩経』
投我以木瓜
報之以瓊琚
匪報也
永以為好也
投我以木桃
報之以瓊瑶
匪報也
永以為好也
投我以木李
報之以瓊玖
匪報也
永以為好也
我に投ぐるに木瓜(ぼくか)を以(もっ)てす
之(これ)に報(むく)いるに瓊琚(けいきょ)を以(もっ)てす
匪(か)れ報(むく)いたり
永(なが)く以(もっ)て好(よしみ)を為(な)さん
我に投ぐるに木桃(ぼくとう)を以(もっ)てす
之(これ)に報(むく)いるに瓊瑶(けいよう)を以(もっ)てす
匪(か)れ報(むく)いたり
永(なが)く以(もっ)て好(よしみ)を為(な)さん
我に投ぐるに木李(ぼくり)を以(もっ)てす
之(これ)に報(むく)いるに瓊玖(けいきゅう)を以(もっ)てす
匪(か)れ報(むく)いたり
永(なが)く以(もっ)て好(よしみ)を為(な)さん
【訳】
私にに木瓜(ぼけ)実を投げてくれた。お返しに美しい玉を贈ろう。お礼ではなく、いつまでも仲良くしたいから。
私に木桃(さんざし)の実を投げてくれた。お返しに美しい玉を贈ろう。お礼ではなく、いつまでも仲良くしたいから。
私に木李(こりんご)の実を投げてくれた。お返しに美しい玉を贈ろう。お礼ではなく、いつまでも仲良くしたいから。
【解説】
男女が、愛を確認するために物を贈り合う、歌垣(うたがき)における「投果婚」をうたった詩です。古代の習俗だった歌垣では、春秋の祭りに未婚の男女が集まって、歌や果実を贈り合いました。女性は気に入った相手に果物を投げ、男子がその女性を気に入れば、腰の佩玉(はいぎょく)を返し、カップルが成立しました。女性が果物を投げるのは「あなたの子供を産みたい」という求愛の表現だったようです。
もともとは豊作を祈る行事だった歌垣は上代の日本でも行われ、春秋の決まった日に男女が集まり、歌舞や飲食に興じた後、性の解放が許されました。昔の日本人は性に関してはかなり奔放で、独身者ばかりではなく、夫婦で歌垣に参加して楽しんでいたようです。
〈木瓜〉〈木桃〉〈木李〉は、それぞれボケ、サンザシ、コリンゴのことで、いずれもすっぱい実のなる酸果樹です。〈瓊琚〉〈瓊瑶〉〈瓊玖〉はいずれも美しい宝玉のことで、それぞれ赤色、白色、黒色の玉とされます。
『詩経』は、305編からなる中国最古の詩集で、孔子が編集したといわれます。風(諸国の民謡)・雅(宮廷の音楽)・頌(祭礼の歌)の三部からなっており、風は国風ともいい、周南・召南・邶(はい)・鄘(よう)・衛・王・鄭・斉・魏・唐・秦・陳・檜・曹・豳(ひん)の15に分かれ、雅は大雅・小雅の二つに分かれ、頌は周頌・魯頌・商頌の三つに分かれています。
これらの詩を孔子は、「詩三百、一言以てこれを蔽(おお)わば、曰く、思い邪(よこしま)なし」と評しており、純朴な心情を詠ったものが多くあります。また、『詩経』に収める詩は四言詩を基本とし、韻は踏みますが、句数、平仄などの形式は定まっていませんでした。
【PR】
→目次へ
がんばれ高校生!
がんばる高校生のための文系の資料・問題集。 |
【PR】
【PR】