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ブルックナーの《交響曲第7番》

 作曲家のお人柄についてですが、たとえばモーツァルトベートーヴェンブラームスマーラーあたりは、それぞれの曲のイメージや本人の顔立ち、伝わるエピソードなどから、どんな性質の人物だったかは何となく想像することができます。モーツァルトは映画『アマデウス』の通りだったんだろうなと思うし、ベートーヴェンは気難しくて癇癪持ち、ブラームスは生真面目なネクラ、マーラーは神経質で分裂気味・・・。実際のところは不確かですが、まー当たらずとも遠からずだろうという納得感はあります。

 ところが、どうにも分かりにくいのがブルックナーです。私には、彼がどんなおじさんだったのか、なかなか想像できません。敬虔なキリスト教徒だったそうですが、曲想からはまるで宇宙人のようだし、人相はいかにも剛直な感じだけど、人に指摘されてしょっちゅう曲を改訂する優柔不断?さもあったといいますし。経歴は、最初は学校の音楽の先生を目指し、またオルガニストとして活躍していたものの、本格的に作曲の勉強を始めたのが32歳と異様に遅い! 女性関係では少女趣味でフラれ続けて生涯独身。また本を読まないため文学的素養に乏しく、オペラも理解できなかったとか。

 ほかにも、多くの焼死者が出た火事の現場に行くのが好きだったとか、殺人事件の裁判を好んで傍聴していたとか、自分が勤務していた教会の前を気に入った女性が通りかかると、声をかけて住所を聞き出そうとしたり自分の交響曲の説明をし出したりとか、かなり理解しがたいエピソードも幾つかあります。そもそも偉人とか天才とされる人には変わり者が多いといわれますが、中でもブルックナーは突出しているように感じます。

 しかし、何より彼を分かりにくくしているのは、彼の交響曲そのものなんだろうと思います。分厚く遠大で剛直で、その故か女性に不人気といわれ、少なからずの男性からも敬遠されるブルックナー。まことに気の毒な思いがいたしますが、しかし、我慢してじっくり耳を傾けていると、剛直ななかに、どこからともなく聴こえてくる何とも優しいメロディー。それもチラッと。私はですねー、これこそがブルックナーの音楽の魅力だと強く思っているところです。

 ですから、ブルックナー好きという数少ない女性ファンの方々は、おそらく彼の曲の中に、武骨で不愛想な男がほのかに見せる優しさのようなものを感じ取っているのではないでしょうか(違うかな?)。とはいえ、曲の魅力は理解できても、ブルックナー自身の為人(ひととなり)は依然としてよく掴めません。まーこの際は、そこらへんはあまり考えないようにというか、彼の人格とは全く切り離して音楽に没頭したほうがよいのでしょう。

 話が長くなりましたが、実はここで触れたかったのは、彼の《交響曲第7番》です。ことさように分かりにくい曲が多いなか、第7番は、珍しく叙情的で甘美なメロディーが多く含まれています。1883年、彼が59歳の年に完成し、やっとこさ初演が大成功した作品といわれ、第4番《ロマンチック》と並んで高い人気を誇っています。これからブルックナーを聴いてみようという人は、この第7番から始めるのがいいかもしれません。

 愛聴盤は、ヘルベルト・ブロムシュテット指揮、ドレスデン・シュターツカペレによる1981年の録音です。「ドレスデン国立管弦楽団」と呼ばれることもあるドレスデン・シュターツカペレは、1548年に設立された、たいへん古い歴史のあるオーケストラです。1548年というと、日本ではまだ戦国時代です。この録音は旧東ドイツに属していたときのものでして、ブロムシュテットによる演奏はあまり威圧的なところがなくて、とても品位のある演奏だと感じます。初めての方でも聴きやすいと思います。

ブルックナーの交響曲第4番『ロマンティック』

 私がクラシック音楽を聴き始めたころ、小学生の時からクラシック音楽ファンという職場の同僚がこんなことを言っていました。「1回聴いていいなと思った曲は本当の名曲。2回聴いていいなと思ったら指揮者が素晴らしい。3回聴いていいなと思ったら演奏者が素晴らしい」。当時は「へー」と感心していましたが、今では、確かにそうした面はあるものの、全然当てはまらない場合もあるよね、と思っています。

 たとえば、ブルックナーの交響曲は、1回や2回や3回聴いたところで、全くその良さが分かりません。重々しく退屈で、はじめは嫌悪感さえ抱いてしまいます。ところが不思議なもので、少し間を置くと再びチャレンジしてみたくなる。でもやっぱり跳ね返されて挫折する。そうしたことを何度か繰り返していくうち、ある瞬間に突然、スコーンと心のド真ん中に飛び込んでくる。目ならぬ耳から鱗が剥がれ落ちたかのように、彼の音楽がブルルンッと琴線を震わす瞬間がやって来るのです。

 おそらく多くのブルックナー・ファンの方も、そうした経緯をたどってこられたのではないでしょうか。私がその境地に到達したときに聴いていたのは《第8番》です。でも、いちばん最初に聴いたブルックナーは《第4番》でした。何たってこの曲だけ『ロマンティック』という素敵な副題がついていますからね。初心者には非常に取っつきやすい。ところが、聴いてみると、ふつうの意味での「ロマンティック」の言葉から想像していた楽想とは全然違う。この曲のいったいどこがロマンティックなのか!と裏切られた感が非常に強かったのであります。

 もっともこの題名はブルックナーが名付けたのかは定かではないといいます。とはいえ、このいかにもロマンティックな題名が奏功してか、《第4番》はブルックナーの交響曲の中では人気も高く演奏機会も多いといいます。私としてはやや合点がいかないところがあるんですが、クラシック音楽では、どうしても題名付きの楽曲が人気を得やすい傾向がありますからね。私の場合、最初の裏切られた感も悪影響しているのか、ブルックナーに目覚めたときの《第8番》や、これぞブルックナーというべき《第5番》や《第9番》に比べると、《第4番》はどうも内容が薄くて飽きやすい感じがしてなりません。


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