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ドボルザークの《交響曲第8番》

 《交響曲第7番》までのドボルザークは、ブラームスの影響を強く受け、ドイツ的な原理による交響曲の作曲に力を入れていたといわれます。それが《第8番》になると様相がガラリと変わり、チェコ人としてのドボルザークの本領発揮といいますか、彼の交響曲の中で民族的情感がもっとも強く込められた曲になっています。またブラームスの《第2番》やマーラーの《第3番》のように、雄大な自然の情景に刺激を受けて作曲した例がありますが、ドボルザークでは《第8番》がそれに当たります。

 何せヨーロッパでは、めちゃくちゃ長い夏休みを風光明媚な避暑地で過ごすという、まことにうらやましい習慣がありますからね。ドボルザークも、かねてお気に入りのボヘミアの避暑地に別荘を建て、《第8番》はその地で夏から秋にかけて作られた曲です。翌年(1890年)の2月、自らの指揮によるプラハでの初演も大成功を収めたといいます。それにしても色々な楽曲でうたわれるボヘミアという土地、一度でいいから行ってみたいところです。

 《第8番》の特徴は、何といっても主題の旋律の長いフレーズにあります。多くの交響曲が、短い主題を構造物のように組み立てていく中にあって、《第8番》は交響曲としては珍しく息が長い旋律が主体となっています。それらはいずれもまことに魅力的で、全曲中もっとも有名な第3楽章はワルツのように滑らかで優美、第4楽章では、あの童謡「コガネムシ」(コガネムシは金持ちだ〜♪)に似たメロディーが現れるなど、リズムの面白さもあって実に楽しい! やはり明るく牧歌的な風景のなかで生まれた曲ならではありましょうか。

 なお、ドボルザークでいちばん有名で親しまれているのは第9番『新世界から』ですが、《第8番》のほうが優れていると評価する人が多いそうで、ドボルザーク自身もそう言っていたとか。皆さまはいかが思われますでしょうか。私もどちらが好きかといわれれば、やはり《第8番》のほうです。愛聴盤は、ジュリーニ指揮、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団による1989年の録音です。ゆったりとして気品のある演奏がお気に入りです。

ドボルザーク(1841〜1904年)
 後期ロマン派に属するチェコの作曲家。ブラームスに才能を見出され、『スラヴ舞曲集』で一躍人気作曲家となった。1892年にアメリカに渡り、ニューヨークの音楽院院長として音楽教育に従事する傍ら、ネイティブ・アメリカンの音楽や黒人霊歌を吸収し、自身の作品に反映させている。しかし、強いホームシックに襲われ体調を崩したこともあり、翌年に帰国。ウィーン楽友協会から名誉会員に推挙されるなど多くの名誉を受けた。

 また大の鉄道好きでもあり、1877年から住み始めたプラハのアパートがプラハ本駅からほど近かったことから、毎朝の散歩でこの駅を訪れることを日課にしていた。また作曲に行き詰まると汽車を眺めに行っていたとも伝えられる。
 

ドボルザークの《交響曲第9番〜新世界から》

 私ら関西人にとって「新世界」というと、大阪市南部の下町、あの「通天閣」がある界隈のことです。しかし、初めて訪れた人は、おそらく「いったい何処が新世界なのか?」と怪訝に思われるでしょう。あそこは元々、パリやニューヨークなど欧米の大都市の風景を模して造られた街でして、凱旋門とエッフェル塔に見立てた通天閣のある円形広場を中心に、道路が放射状に伸びているんです。今となってはレトロな街並みですが、それと共に一種独特な雰囲気があり、若者にとっては別の意味で「新世界」といえなくもありません。

 そして、ドボルザークの《交響曲第9番〜新世界から》の「新世界」は、チェコ生まれのドボルザークが見たアメリカを指しています。19世紀後半、産業の成長により目覚ましい発展を遂げつつあったアメリカの風景に強い衝撃を受けて作られた曲だとされます。そして、この曲はアメリカそのものを表現したというより、アメリカの地から故郷のチェコを思って作られた曲だといいます。チェコの小さな農村で生まれ育ったドボルザークにとって、ニューヨークでの生活は刺激が強すぎて、強度のホームシックにかかっていたというんですね。可愛い!

 演奏機会も多く、全体としてたいへん親しみやすい《第9番》のなかで、有名なのは何といっても第2楽章ですね。ドボルザークの弟子のフィッシャーが歌曲にアレンジして『家路』という題名で出版し、大流行したのが始まりです。「遠き山に日は落ちて・・・」って、学生時代によくキャンプファイアーなんかで歌ったもんです。でも、この曲に誰もが郷愁を感じるのは何故か、実はこれには音の秘密があるそうです。

 NHKテレビの『らららクラシック』で言っていた話でして、第2楽章のメインとなるメロディーは、9音階の4番目のファと7番目のシが抜けた「ヨナ抜き音階」になっているというのです。4番目と7番目が抜けているから「ヨナ抜き」。この音階は世界中の民謡などで広く用いられていて、日本では「赤とんぼ」「蛍の光」なんかが当てはまるそうです。古くから民謡などで使われているものだから、それで多くの人が自然と懐かしい気持ちになるというんです。知りませんでしたねー。

 ところで、《第9番》の副題は『新世界から』ではなく『新世界より』と表記される例が多いようです。この「から」と「より」の違いは何かというと、本来、「から」は起点を表し、「より」は比較を表す言葉だそうです。たとえば「〇〇さんより電話がありました」というのは間違いで、「〇〇さんから電話がありました」というのが正当。ですから、第9番も『新世界から』とするのが本当は正しい。でも、実際のところは他にも混同して使っている例はたくさんありますし、これ以上くどくど言うと小姑みたいですからやめときます。
 

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