『詩経』
鶏既鳴矣
朝既盈矣
匪鶏則鳴
蒼蠅之声
東方明矣
朝既昌矣
匪東方則明
月出之光
蟲飛薨薨
甘与子同夢
会且帰矣
無庶予子憎
鶏(にわとり)既(すで)に鳴(な)けり
朝(あさ)既(すで)に盈(み)てり
鶏(にわとり)の則(すなわ)ち鳴くに匪(あら)ず
蒼蠅(そうよう)の声なり
東方(とうほう)明けり
朝(あさ)既(すで)に昌(さかん)なり
東方(とうほう)の則(すなわ)ち明(あ)くるに匪(あら)ず
月(つき)出(い)づるの光なり
蟲(むし)飛んで薨薨(こうこう)たり
子(し)と夢を同じくするを甘(たの)しむ
会いて(まさ)に帰(とつ)がん
予(よ)の子(し)を憎(にく)むを庶(はか)ること無(な)かれ
【訳】
鶏が鳴いたわ、朝が来たのね。いや、鶏が鳴いたのではない、ハエの飛ぶ音だよ。
東の空が明るいわ、もうすっかり朝になったのね。いや、東の空が明るんだのではない、月の光だよ。
虫がぶんぶんと飛びだしたわ、もうお昼。でも、このままあなたと同じ夢を見て楽しみたい。あなたにお嫁に行きます。あなたを嫌いになんかならないわ。
【解説】
結婚前夜の若い男女の楽しみをうたった詩です。ただし、「朝」を「あさ」と読むのではなく「ちょう」と読めば、詩の解釈が変わってきて、「もう朝廷のお勤めに行く時間よ」というふうになります。「会且帰矣」も「もう帰ってください」あるいは「もうお勤め終いだわ」などと解され、最後の句の「無庶予子憎」も主語だか分かりにくいため、「私を憎まないでください」とか「みんなが私たちを憎んでいる」などの解釈があります。
『詩経』は、305編からなる中国最古の詩集で、孔子が編集したといわれます。風(諸国の民謡)・雅(宮廷の音楽)・頌(祭礼の歌)の三部からなっており、風は国風ともいい、周南・召南・邶(はい)・鄘(よう)・衛・王・鄭・斉・魏・唐・秦・陳・檜・曹・豳(ひん)の15に分かれ、雅は大雅・小雅の二つに分かれ、頌は周頌・魯頌・商頌の三つに分かれています。
これらの詩を孔子は、「詩三百、一言以てこれを蔽(おお)わば、曰く、思い邪(よこしま)なし」と評しており、純朴な心情を詠ったものが多くあります。また、『詩経』に収める詩は四言詩を基本とし、韻は踏みますが、句数、平仄などの形式は定まっていませんでした。
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