『文選』
客従遠方来
遺我一端綺
相去万余里
故人心尚爾
文采双鴛鴦
裁為合歡被
著以長相思
縁以結不解
以膠投漆中
誰能別離此
客(きゃく)遠方(えんぽう)従(よ)り来(き)たり
我(われ)に一端(いったん)の綺(あやぎぬ)を遺(おく)る
相(あ)い去(さ)ること万余里(ばんより)なるも
故人(こじん)の心(こころ)尚(な)お爾(しか)り
文采(ぶんさい)は双鴛鴦(そうえんおう)
裁(た)ちて合歡(ごうかん)の被(ひ)と為(な)す
著(ちょ)するに長相思(ちょうそうし)を以(もっ)てし
縁(えん)するに結不解(けつふかい)を以(もっ)てす
膠(にかわ)を以(もっ)て漆中(しっちゅう)に投(とう)ずれば
誰(たれ)か能(よ)く此(これ)を別離(べつり)せん
【訳】
あなたからのお使いが遠方より訪ねてきて、わたしに一反のあや絹を届けてくださいました。はるか万里の遠くにあっても、あなたはわたしを忘れないで下さったのですね。
あや絹の模様はつがいの鴛鴦(おしどり)、これを裁って共寝の布団に仕立てましょう。いつまでも遂げる思いをこめた綿を詰め、縁は決して離れることがないようにしっかりかがりましょう。
膠を漆の中に入れたら、誰も引き離すことができないように、わたしたちもそのようにありたいものです。
【解説】
『文選』は、六朝時代の梁の昭明太子が側近の文人らの協力を得て編集した詩文集です。30巻からなり、春秋戦国時代以降の800余の文章・詩・賦が収録されています。この詩は『古詩十九首』の其の十八で、夫と別れて暮らす妻が、旅人を介して夫からあや絹を贈られた喜びを歌うものです。そのあや絹で夫婦共寝のための布団を作り、夫が戻ってくる日にそなえましょうという、けなげな気持ちが表現されています。
〈端〉は布帛の単位で、一端で成人一人分の衣料に当たります。〈綺〉は文(あや)模様のある絹。〈故人〉は古くからよしみのある人、ここでは夫。〈文采〉は模様。〈双鴛鴦〉は夫婦の和合の象徴。〈著〉は綿を詰め込むこと。〈長相思〉は綿の縁語で、綿々とつながるさまを表します。〈結不解〉は固く結んだ糸がほどけぬさま。
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