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メンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』

 文豪シェイクスピアの戯曲をもとにメンデルゾーンが作曲した『真夏の夜の夢』。序曲および12の劇中音楽から成っており、序曲はメンデルスゾーンが17歳のときの作品です。木管楽器による長い4つの和音による冒頭のメロディーはまことに神秘的かつ印象的で、そこの部分を聴いただけで幻想的な世界にすぅーっと引き込まれていくようです。元々は姉のファニーと楽しむために書いたピアノ連弾曲だったそうですが、いやはや、17歳でのこの完成度にはあらためて天才の感性の驚異を感じさせられます。

 劇に登場するのは、夏至の夜にアテネ郊外の森に出かけていく貴族や職人などの10人の人間、そして森に住む妖精たちです。ストーリーをざっくりいうと、人間の男女は結婚に関する問題を抱えており、妖精の王と女王は養子を巡り仲違いをしています。しかし、妖精の王の画策や妖精の一人パックの活躍によって最終的には円満な結末を迎えるというものです。

 なお、この戯曲および楽曲の日本語名について、近年では『真夏の〜』ではなく「真」を取り払って『夏の夜の夢』とする例が多く見られます。原題『A Midsummer Night's Dream』のmidsummerの語は、真夏というより夏至あたりを指しており、真夏と夏至では気候がかなり違う上に、「真夏」というと日本の暑苦しさをイメージさせ誤解を招くというのがその理由です。てっきりユーミンの同名曲を憚ったのかと思っていましたが(嘘です)、しかし、『夏の夜の夢』ではずいぶん語呂が悪いと感じます。

 それに「夏至」と特定しているにもかかわらず、単に「夏」とするほうが、よっぽど乱暴で漠然としすぎているように思いますけどね。太陽の位置がもっとも高くなり、昼の時間がいちばん長くなる夏至の日は、7、8月に比べれば確かに気温は低いものの、梅雨のさなかでけっこう蒸し暑い時期です。何より天文学的には正真正銘の「真夏」といっていいのではないでしょうか。お願いですから『真夏の夜の夢』に戻してください。

 愛聴盤は、ギュンター・ヘルビッヒ指揮、シュターツカペレ・ベルリン演奏による1976〜77年の録音です。だいぶ古い録音ですが、音質は悪くなく、序曲はもちろん、『妖精たちの行進曲』『妖精の歌』も、雰囲気があって大好きです。他にアンドレ・プレヴィン指揮、ウィーン・フィルによる盤やアバド指揮、ベルリン・フィルによる盤も聴きましたが、何となくしっくりきたのはヘルビッヒ盤のほうでした。
 
 それから、どの盤を聴いても思うことなのですが、あの有名な『結婚行進曲』のとこだけ、どうも違和感があるというか、その曲だけが浮いてしまっているような感じがしてなりません。『結婚行進曲』自体はとても素晴らしい曲に違いないのですが、それまでに描かれてきた幻想的な空間のイメージが、いきなりぶち壊される?ような印象を受けます。明るく華やかな場面への転換はよいとしても、どうも馴染めなくて、耳を塞ぎたくなってしまう・・・。ずいぶん天邪鬼な感想ですみません。

絶体にかなわない相手

 どれほど有名な指揮者であっても、少なくともある一点において「絶対にかなわない」という相手と共演し、ときに対決する機会を持たなかったら、能力は間違いなく頭打ちとなり、停滞し、遂には退化の運命をたどる、っていうんです。

 たとえば、小澤征爾さんとサイトウ・キネン・オーケストラが何年にもわたって変わらぬ集客力を保ってきたのは、総監督の小澤さんですら一目を置かざるを得ない同じ齋藤秀雄門下の盟友、ヴァイオリニストの潮田益子とか安芸陽子、ヴィオリストの今井信子などの姉御を中核とする国際級のソリスト集団が、「そこ、そんなに振らないでよ」「そうか、判った」などと、温かいなかにも厳しい応酬を交わしながら音楽づくりを進めてきたからだ、って。

 まことに示唆に富むお話ではありませんか。「絶対にかなわない」相手。自らの成長のためには、とっても貴重だし有難い存在です。また自分自身も、何か一つ、誰にも負けないというものを修練して会得したく思う次第です。
 

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オーディオは一生の友。ゆる〜いファンではありますが、いろいろと感じることがあります。


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