『文選』
去者日以疎
来者日以親
出郭門直視
但見丘與墳
古墓犁為田
松柏摧為薪
白楊多悲風
蕭蕭愁殺人
思還故里閭
欲帰道無因
去る者は日(ひび)に以(もっ)て疎(うと)まれ
来(きた)る者は日(ひび)に以(もっ)て親(した)しまる
郭門(かくもん)を出(い)でて直視(ちょくし)すれば
但(ただ)丘(きゅう)と墳(ふん)とを見るのみ
古墓(こぼ)は犁(す)かれて田(た)と為(な)り
松柏(しょうはく)は摧(くだ)かれて薪(たきぎ)と為(な)る
白楊(はくよう)に悲風(ひふう)多く
蕭蕭(しょうしょう)として人を愁殺(しゅうさい)す
故里(こり)の閭(りょ)に還(かえ)らんと思ひ
帰らんと欲すれども道(みち)因(よ)る無し
【訳】
別れて去りゆく者は日を追って疎遠になり、来て相接する者は日ごとに親しくなる。いま城門を出てまっすぐに見渡せば、そこにはただ丘陵と墳墓があるのみ。古い墓はいずれ耕されて田畑となり、常緑を誇った松や柏は切り倒されて薪になってしまった。
いまはただ白楊に悲しい秋風が吹き、その寂しそうな音が人を愁いさせるばかりである。せめて故郷に帰りたいと思うのだが、帰るべき道がない。
【解説】
『文選』は、六朝時代の梁の昭明太子が側近の文人らの協力を得て編集した詩文集です。30巻からなり、春秋戦国時代以降の800余の文章・詩・賦が収録されています。この詩は『古詩十九首』の其の十四です。去る者と来る者の対比によって、人間関係の真実と人間社会の無常さが詠われており、日本人にも広く愛唱されてきました。
〈去者〉と〈来者〉の解釈は、「去ってゆく者」と「やって来る者」と解する説と「死にゆく者」と「生まれ来る者」と解する説に大別されます。詩の後の部分との繋がりでは、前者の解釈を妥当とする意見が強いようです。〈疎〉は疎遠になること。〈郭門〉は城門。〈白楊〉はハコヤナギ。〈悲風〉は物悲しい秋風。〈蕭蕭〉はもの寂しく感じられるさま。〈秋殺〉は秋の風に吹かれて憂いが生じること。〈故里閭〉は故郷の村里の入口にある門。
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