世界のオペラ劇場でもっとも人気が高く上演回数が多いとされる、イタリアの作曲家ヴェルディのオペラ『椿姫』。冒頭の『乾杯の歌』のメロディーはオペラを知らない人でもご存知のはず。原題は『道を踏み外した女(La traviata)』ですが、日本版では原作のデュマの小説『椿を持つ婦人(La
Dame aux camelias)』の題名が翻訳されて『椿姫』になっています。でも、お姫さまの話というのではなく、パリにいた高級娼婦と呼ばれる女性のことなんですね。
物語の舞台は19世紀半ばのパリの社交界。一人の高級娼婦ヴィオレッタが、貴族の青年アルフレードと出会い、やがて真実の愛に目覚める。二人はパリの田舎で幸せに暮らし始めるが、アルフレードには厳格な父親がいて、一族の評判を傷つけないため息子と別れるよう彼女を説得する。何も言わずに彼のもとを去ったヴィオレッタに対して、事情を知らないアルフレードは裏切られたと誤解し、大勢の人前で彼女をなじり、旅に出てしまう。その後、ヴィオレッタは貧しい生活の中で結核に冒され、死の床にいる。そこに、アルフレードと父親が現れ、深い悔悟の念を示すも時すでに遅し。ヴィオレッタは、生き変わる喜びの夢を見つつ、アルフレードの腕の中で息絶える、というものです。
ちなみに、原作者のデュマは、『三銃士』『モンテ・クリスト伯』の作者であるデュマとは別人で、彼の息子にあたります。どちらもアレクサンドル・デュマという名前なので、父親を大デュマ、息子のほうを小デュマと呼んで区別しているそうです。『椿姫』は小デュマのデビュー作で、しかも彼の実体験に基づいています。彼の恋人だったマリー・デュプレシという女性がモデルで、小説と同じように若くして結核で死んでしまいます。彼女の死後、デュマはこれを一気に書き上げたといいます。
そういえば、1990年公開の映画『プリティ・ウーマン』の中で、エドワードとヴィヴィアンが観に行ったオペラが、この『椿姫』でしたね。開演前にエドワードがヴィヴィアンに語った「初めてオペラを観た人は、必ずドラマチックな体験をしたと言う。好きになる人もいれば、嫌いになる人もいる。好きになればオペラは一生の友となるし、嫌いならオペラは君の魂にはなり得ない」という言葉も印象的でしたが、観ているうちにどんどん惹き込まれていき、最後には涙を流していたヴィヴィアンの姿が素敵でした。
『椿姫』、まことにドラマチックな物語なわけですが、それまでのオペラは単に歌声の美しさを楽しむために鑑賞するものだったのが、ヴェルディが物語を付加したことで、オペラの歴史を変えたともいわれています。愛聴盤は、カルロス・クライバー指揮、バイエルン国立管弦楽団ほかによる1976〜77年の録音です。ヴィオレッタといえばマリア・カラスが有名で人気も高いのですが、本盤でのイレアナ・コトルバスのソプラノも実に優美です。そして何より録音が優秀で、若きクライバーの凄みがぴしぴし伝わってきます。
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