ヴェルディのオペラ『椿姫』
世界のオペラ劇場でもっとも人気が高く上演回数が多いとされる、イタリアの作曲家ヴェルディのオペラ『椿姫』。原題は『道を踏み外した女(La traviata)』だそうですが、日本版では原作の小説『椿姫(La Dame aux camelias)』がタイトルになっています。冒頭の『乾杯の歌』のメロディーはオペラを知らない人でもご存知のはず。
物語の舞台は19世紀半ばのパリの社交界。椿姫と呼ばれた一人の高級娼婦ヴィオレッタが、貴族の青年アルフレードと出会い、やがて真実の愛に目覚める。二人はパリの田舎で幸せに暮らし始めるが、アルフレードには厳格な父親がいて、一族の評判を傷つけないため息子と別れるよう彼女を説得する。何も言わずに彼のもとを去ったヴィオレッタに対して、事情を知らないアルフレードは裏切られたと誤解し、大勢の人前で彼女をなじり、旅に出てしまう。その後、ヴィオレッタは貧しい生活の中で結核に冒され、死の床にいる。そこに、アルフレードと父親が現れ、深い悔悟の念を示すも時すでに遅し。ヴィオレッタは、生き変わる喜びの夢を見つつ、アルフレードの腕の中で息絶える、というものです。
そういえば、1990年公開の映画『プリティ・ウーマン』の中で、エドワードとヴィヴィアンが観に行ったオペラが、この『椿姫』でしたね。開演前にエドワードがヴィヴィアンに語った「初めてオペラを観た人は、必ずドラマチックな体験をしたと言う。好きになる人もいれば、嫌いになる人もいる。好きになればオペラは一生の友となるし、嫌いならオペラは君の魂にはなり得ない」という言葉も印象的でしたが、観ているうちにどんどん惹き込まれていき、最後には涙を流していたヴィヴィアンの姿が素敵でした。
まことにドラマチックな物語なわけですが、それまでのオペラは単に歌声の美しさを楽しむために鑑賞するものだったんですね。ヴェルディが物語を付加したことで、オペラの歴史を変えたともいわれています。愛聴盤は、カルロス・クライバー指揮、バイエルン国立管弦楽団ほかによる1976〜77年の録音です。ヴィオレッタといえばマリア・カラスが有名で人気も高いのですが、本盤でのイレアナ・コトルバスのソプラノも実に優美です。そして何より録音が優秀で、若きクライバーの凄みがぴしぴし伝わってきます。
●ヴェルディ(1813〜1901年)
イタリアのロマン派音楽の作曲家。おもにオペラを作曲し「オペラ王」の異名をもつ。生涯で26のオペラを作曲。代表作は『ナブッコ』『リゴレット』『椿姫』『仮面舞踏会』『アイーダ』『マクベス』『オテロ』など。中でも『マクベス』と『オテロ』は、彼が尊敬していたシェイクスピアの劇をオペラ化したもの。晩年には、引退した音楽家のための「憩いの家」を設立するなど慈善事業にも取り組んだ。
【PR】
プッチーニのオペラ『蝶々夫人』
日本の長崎を舞台に、没落藩士の令嬢・蝶々とアメリカ海軍士官ピンカートンとの恋愛の悲劇を描いた、プッチーニのオペラ『蝶々夫人』。私はですねー、このオペラですぐに思い出すのが、映画『男はつらいよ・寅次郎春の夢』です。アメリカから日本へやって来たセールスマンのマイケルが”さくら”に横恋慕するストーリーでして、映画のなかで、劇団一座によってこの『蝶々夫人』が演じられ、また、マイケルの夢想のなかで倍賞千恵子さんがアリア『ある晴れた日に』を歌う場面があります。
若いころにこの映画を観て初めて知った『蝶々夫人』の、この場面の印象がめちゃくちゃ強いもんですから、オペラを聴いていて同じシーンになると、どうしても『男はつらいよ』が脳裏に浮かんできます。しかも困ったことに、私には賠償さんの歌のほうが何となく情緒があって素敵に感じてしまう。元松竹歌劇団(SKD)の団員であり、養成所で首席だった賠償さんですからね、さすがにすごいもんです。
また、このオペラ、プッチーニが作曲した時期にヨーロッパで流行っていた「ジャポニズム」を反映してか、随所に日本の歌のメロディーが流れます。たとえば『宮さん宮さん』とか『さくらさくら』『お江戸日本橋』『君が代』などなど。このため日本人にも馴染みやすいオペラとも言われ、たしかに興味深いのですが、天邪鬼な日本人の私としては、どうも取ってつけたような違和感を禁じ得ません。こんな狭量な鑑賞態度はいけませんかね。むしろプッチーニの厚意に感謝すべきなのかも。ただ、背の高い屈強?な外人女性歌手が、着物を着て日本髪を結っている姿だけは、どういもいただけない。
ディスクは、なんといってもカラヤン指揮、ウィーン・フィル演奏による盤が有名で高評価です。1970年代の古い録音ですが、UHQ-CDによって高音質化がはかられています。ウィ−ン・フィルの深みのある美音、カラヤンならではの豪華で豊潤な響き、ソプラノのフレーニの歌声も妖艶で魅力的です。
●プッチーニ(1858〜1924年)
イタリアのオペラ作曲家。父祖代々の音楽家の家系に生まれ、1880年にミラノ音楽院に入り、アントニオ・バッツィーニ、アミルカレ・ポンキエッリらに師事。ベルディ以来最大のオペラ作曲家といわれ、劇的な題材と優美な旋律で、管弦楽の新しい効果を背景にイタリアの伝統的歌唱法を主とする作品をつくった。代表作は、『マノン・レスコー』『ラ・ボエーム』『トスカ』『蝶々夫人』など。
【PR】
↑ 目次へ ↑このページの先頭へ