陸游
裏塩迎得小狸奴
尽護山房万巻書
慚愧家貧策勲薄
寒無氈坐食無魚
塩(しお)を裏(つつ)みて迎(むか)え得(え)たり 小さき狸奴(りど)
尽(ことごと)く護(まも)る 山房(さんぼう)万巻(ばんかん)の書(しょ)
慚愧(ざんき)す 家は貧しくて勲(いさお)に策(むく)ゆること薄(うす)く
寒きにも氈(せん)の坐(ざ)する無く 食(しょく)に魚(うお)無し
【訳】
塩をお礼につつみ、小さな猫を迎えることができた。書斎の万巻の書物をネズミから守ってくれた。だが、恥ずかしいのは、家が貧しくて手柄に報いることができない。寒くても座らせる毛氈もなく、食べ物に魚も出してやれないことだ。
【解説】
陸游が59歳、故郷の紹興(しょうこう)に隠居していた時の作。猫好きだったのか、20余首の猫の詩を作っており、とりわけ、大事な蔵書をネズミから守ってくれながら、その労に報いてやれないのが申し訳ないと呼びかけるこの詩は、猫への優しい愛情に溢れています。宋の時代には多くの人が猫を愛でるようになったらしく、よその家に子猫が生まれると、塩をお礼に贈って貰い受けたといいます。中国内陸では塩は貴重品であり、貨幣に準ずる価値がありました。
七言絶句。「奴、書、魚」で韻を踏んでいます。〈狸奴〉は猫の愛称。〈尽〉は、ことごとく。〈山房〉は書斎。〈万巻書〉は多くの書物。〈慚愧〉は恥じること。〈策勲〉は手柄を記録する、報いる。〈氈坐〉は毛氈の敷物。〈食無魚〉は、斉の孟嘗君(もうしょうくん)の食客だった馮驩(ふうかん)が待遇改善を求めて長鋏(ちょうきょう:剣)を叩き、「長鋏よ帰来らんか、食に魚無し(わが剣よ、故郷へ帰ろうか、ここには食事に魚もない)」と歌った故事をふまえています。
【PR】
→目次へ
がんばれ高校生!
がんばる高校生のための文系の資料・問題集。 |
【PR】