王安石
石梁茅屋有彎碕
流水濺濺度両陂
晴日暖風生麦気
緑陰幽草勝花時
石梁(せきりょう)茅屋(ぼうおく)彎碕(わんき)有(あ)り
流水(りゅうすい)濺濺(せんせん)として両陂(りょうひ)を度(わた)る
晴日(せいじつ)暖風(だんぷう)麦気(ばくき)を生(しょう)じ
緑陰(りょくいん)幽草(ゆうそう)花時(かじ)に勝(まさ)る
【訳】
石の橋、茅葺きの小さな家、彎曲した川の岸辺。流れる水は両側の土手の間をさらさらと過ぎて行く。晴れた日差しと暖かい風の中に、麦の香りが漂い、青葉の茂った木陰とひっそりと生い茂る草は、花の咲く時節にまさる。
【解説】
王安石が、56歳で北宋の宰相を辞し、南京郊外に隠棲した後の作品。初夏のひととき、自然豊かな自宅の近辺を散策しながら眼前の風景を細やかに歌うこの詩には、激しい政争に神経をすり減らしてきた官界からようやく離れ、のどかで静謐な境地に憩う喜びが映し出されています。「初夏」は陰暦の初夏、陰暦の4月、「即事」は、折に触れて、またはその場のことを題材として詩を作ることを意味し、詩題に用います。
七言絶句。「碕・陂・時」で韻を踏んでいます。〈石梁〉は石の橋。〈茅屋〉は茅葺き屋根の小さな家。〈彎碕〉は彎曲した川岸。〈濺濺〉は水がさらさらと流れる音。このように同じ字を重ねた熟語を「重言(ちょうげん)」または「畳語(じょうご)」といいます。〈両陂〉は両側の土手、堤。〈晴日〉は晴れた日差し。〈麦気〉は、畑から漂う麦の香り。初夏の頃に麦を刈り入れるため、この時節を「麦秋」ともいいます。〈生〉は漂ってくる。〈緑陰〉は青葉の茂った木陰。〈幽草〉は、人目につかずひっそりと生い茂る草。〈花時〉は、色々な花が咲く時節。〈勝〉は、まさる、素晴らしい。
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