王安石
金爐香尽漏声残
翦翦軽風陣陣寒
春色悩人眠不得
月移花影上欄干
金炉(きんろ)香(こう)尽(つ)きて漏声(ろうせい)残(ざん)す
翦翦(せんせん)の軽風(けいふう)陣陣(じんじん)の寒さ
春色(しゅんしょく)人を悩(なや)まして眠(ねむり)り得(え)ず
月は花影(かえい)を移して欄干(らんかん)に上(のぼ)らしむ
【訳】
黄金の香炉の香は燃え尽き、水時計の時を告げる音も弱々しくなってきた。微風が吹いては止み吹いては止みして、肌寒い。春の景色は人を物思いに耽らせ、なかなか寝つけない。さっきまで地面にあった花の影が、いつしか欄干にまで上ってきた。
【解説】
まだ寒さの残る早春の頃、作者が宮中(学士院)で宿直したときに詠んだ詩です。蘇軾の『春夜』とともに、春の夜の情緒を詠った詩の双璧とされます。1068年、王安石は一地方官から皇帝の側近である翰林(かんりん)学士に抜擢され、後には副宰相、首席宰相となり、政治改革にあたった人です。この時代、翰林学士は一晩ずつ交代で宮中で宿直する決まりになっていました。
七言絶句。「残・寒・干」で韻を踏んでいます。〈夜直〉は宮中に宿直すること。〈金炉〉は黄金製の香炉または金属製の美しい香炉。〈香尽〉は香が燃え尽きる。〈漏声〉は水時計の音。〈残〉は、かすかになる、弱々しくなる。〈翦翦〉は風がそよそよと吹くさま。〈軽風〉は微風、そよ風。〈陣陣〉は吹いては止み吹いては止み、絶え絶えに続くさま。〈春色〉は春の景色。〈眠不得〉は、どうしても眠れない。〈上欄干〉は、月の位置が動いたことで花影が移動する様子。時間の経過を花の影の移動で表現しており、王安石は、鋭敏な言語感覚にもとづく独特の詩語を用いた詩人として定評があります。
【PR】
→目次へ
がんばれ高校生!
がんばる高校生のための文系の資料・問題集。 |
【PR】