
孟浩然
春眠不覚暁
処処聞啼鳥
夜来風雨声
花落知多少
春眠(しゅんみん)暁(あかつき)を覚(おぼ)えず
処処(しょしょ)啼鳥(ていちょう)を聞く
夜来(やらい)風雨(ふうう)の声(こえ)
花落つること知る多少(たしょう)ぞ
【訳】
春の朝、すっかり寝坊をしてしまった。あちらこちらから鳥のさえずりが聞こえてくる。昨夜の雨風はひどかったが、花はどれほど散ってしまっただろうか。
【解説】
誰もが知っている「春眠暁を覚えず」の句で有名な詩です。作者は役人になろうとがんばりましたが、結局うまくいきません。でも、出世はしなくとも、思う存分に朝寝坊ができる。そんなのんびりした生活から生まれた詩です。役人ともなれば日の出前から出勤しなくてはなりませんから、隠遁生活をしていたことが窺えます。この詩は多く「惜春の思い」をうたっていると解釈されますが、実は、世俗から離れ、別世界に生きる「高士」の生き方を詠じているもののようです。
五言絶句。「暁、鳥、少」で韻を踏んでいます。〈春眠〉は春の眠り。〈不覚暁〉は夜が明けたことに気づかない。「覚」は気づく意。〈処処〉はあちらこちら、至る所。〈啼鳥〉は鳥の鳴く声。〈夜来〉は昨夜または夕べ。〈知多少〉はどれほどか。「多少」はここでは疑問詞。ただし、第4句は「さぞ多くの花が散ってしまったことだろう」との解釈もあります。
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皇帝の面前での大失態
孟浩然は若い頃から才能を認められていましたが、科挙(官吏登用試験)にはなかなか合格できず、40歳近くになってようやく都・長安に出て、時の皇帝・玄宗にアプローチする機会を伺っていました。
ある日、親友の王維の宿舎(宮廷内)に遊びに行っていたところ、なんと突然、皇帝・玄宗がその部屋を訪ねてきました。驚いた孟浩然は、慌ててベッド(あるいは机)の下に隠れます。しかし王維は嘘をつけず、「実は孟浩然がおります」と白状しました。玄宗は以前から孟浩然の名声を聞いていたため怒らず、孟浩然に対し「お前の詩を聞かせてみよ」と、千載一遇のチャンスを与えます。
ここで、自慢の詩を詠めば一発採用だったはずなのですが、緊張したのか孟浩然は、こともあろうに「歳暮 帰南山(歳暮れに南山に帰る)」という、不満を愚痴る詩を選んでしまいました。その中の一節がこちらです。
「不才 明主に棄てられ」(才能がない私は、賢明な天子様に見捨てられ)、「多病 故人に疎んぜらる」(病気がちの身は、古い友人たちからも疎まれています)。
これを聞いた玄宗はムッとしました。「お前が自分から試験に落ちて仕官しなかっただけなのに、なぜ私が『お前を見捨てた』などと悪者扱いされねばならんのだ!」。玄宗の機嫌は一気に悪くなり、孟浩然は即座に都を追い出されてしまいました。千載一遇の生涯最大のチャンスを、自らのチョイスミスで台無しにしてしまった決定的なエピソードです。
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