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漢詩を読むがんばれ高校生!

帰園田居(園田の居に帰る)

陶淵明

少無適俗韻
性本愛邱山
誤落塵網中
一去十三年
羈鳥恋旧林
池魚思故淵
開荒南野際
守拙帰田園
方宅十余畝
草屋八九間
楡柳蔭後簷
桃李羅堂前
曖曖遠人村
依依墟里煙
狗吠深巷中
鶏鳴桑樹頂
戸庭無塵雑
虚室有余間
久在樊籠裏
復得返自然

少(わか)きより俗(ぞく)に適(かな)うの韻(いん)無く
性(せい)本(もと)邱山(きゅうざん)を愛す
誤って塵網(じんもう)の中に落ち
一たび去って十三年(じゅうさんねん)
羈鳥(きちょう)は旧林(きゅうりん)を恋(こ)い
池魚(ちぎょ)は故淵(こえん)を思う
荒(こう)を南野(なんや)の際(さい)に開かんとし
拙(せつ)を守って田園(でんえん)に帰る
方宅(ほうたく)は十余畝(じゅうよほ)
草屋(そうおく)は八九間(はちくけん)
楡柳(ゆりゅう)後簷(こうえん)を蔭(おお)い
李(とうり)堂前(どうぜん)に羅(つら)なる
曖曖(あいあい)たり 遠人(えんじん)の村
依依(いい)たり 墟里(きょり)の煙(けむり)
狗(いぬ)は吠(ほ)ゆ 深巷(しんこう)の中(うち)
鶏(とり)は鳴く桑樹(そうじゅ)の頂(いただき)
戸庭(こてい)塵雑(じんざつ)無く
虚室(きょしつ)に余間(よかん)有り
久しく樊籠(はんろう)の裏(うち)に在(あ)るも
復(ま)た自然に返るを得たり

【訳】
 若い頃から、世間と折り合いが合わず、生まれつき自然を愛してきた。ところが誤って役人生活に落ち、あっという間に13年たってしまった。
 籠の鳥はかつて棲んでいた林にあこがれ、池の魚はもと棲んでいた淵に帰りたがるものだとか。だから私も、村の南の荒地を開こうと思い、世渡り下手の生き方を大事にして、田園に戻ってきた。
 わが家の宅地は十畝あまり、草ぶきの粗末な家ながらも部屋は8つか9つある。楡(にれ)や柳が裏の軒先を覆い、前庭には桃や李(すもも)が連なっている。
 遠くには村里がかすんで見え、炊(かし)ぎの煙がなつかしそうに立ち上る、奥まった路地では犬が吠え、桑の木の梢では鶏が鳴いている。
 庭には塵ひとつなく、がらんとした部屋は十分余裕がある。長らく籠の鳥のようなく役人生活を続けてきたが、また自然の姿に帰ることができた。

【解説】
 若いころから儒学を修め、志をもって29歳で官途についた陶淵明(陶潜)でしたが、家柄のため出世はかなわず、周囲の人間との折り合いも芳しくなく、しだいに故郷の田園に帰りたいと思うようになります。
 そんな淵明が42歳になり、彭沢(ほうたく)の県令だった時、査察官が来るので正装して出迎えよとの指示が出ます。しかもその査察官は淵明の同郷の若造でした。屈辱感に耐えかねた淵明は「われ五斗米の為に膝を屈して小人に向かう能わず」といって、即座に官を辞し、故郷に向かいました。
 以後、招かれても官途につくことなく、酒を愛で自然に親しみながら、田舎に閑居する暮らしを送りました。この詩は、辞任して故郷の田園に戻った前後の気持ちを詠んだものとされます。全部で5首の連作のうちのその一です。

 五言古詩。〈韻〉はここでは様子、おもむきの意。〈邱山〉は山や丘などの自然。〈塵網〉は汚れた網。俗世間や役人生活。〈羈鳥〉は籠の中の鳥、役人生活を指しています。〈旧林〉はかつて棲んでいた林。〈故淵〉はかつて棲んでいた川の淵。〈守拙〉は世渡り下手な生き方を貫き通すこと。〈方宅〉は四角い宅地。〈十余畝〉の畝は面積の単位で、当時の一畝は約5アール。こじんまりした広さを表しています。〈曖曖〉は遠くかすんで見えるさま。〈依依〉は煙が緩やかにたなびくさま。〈墟里〉は村里。〈深巷〉は奥まった路地。〈戸庭〉は門の内、庭。〈塵雑〉はほこりやごみごみした雑多なもの。〈虚室〉は何もないがらんとした部屋。〈樊籠裏〉は鳥籠の中、役人生活にたとえています。〈自然〉は本来の自分。自由で束縛されない状態。

陶淵明(とうえんめい)

六朝東晋の詩人・文章家(365年~427年)。清潔な人柄から、死後「靖節先生」と呼ばれた。地主階級に生まれ、幾度か役人生活をする。情熱を内に秘めた平易簡明な詩文は、杜甫や蘇軾など後代多くの文人に愛され、郷里の田園に隠遁後は、自ら農作業に従事しつつ、日常生活に即した詩文を多く残し、「隠逸詩人」「田園詩人」などと称された。

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古 詩

唐代になって新たに起こった近体詩(絶句・律詩)以前の詩、すなわち太古から随までの詩。大多数は五言または七言の句で構成されるが、七言古詩にはときに8字以上の句を含むこともある。古詩は、韻を踏むだけで、平仄や句数に制限がない。

なお、近体詩が成立した後も、その規則に従わない、比較的自由な詩も作られた。その自由な歌いぶりをもって、近体詩と詩を二分する形で後世に受け継がれた。

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