蘇軾
黒雲翻墨未遮山
白雨跳珠乱入船
巻地風来忽吹散
望湖楼下水如天
黒雲(こくうん)墨を翻(ひるがえ)して未(いま)だ山を遮(さえぎ)らず
白雨(はくう)珠(たま)を跳(おど)らせ乱れて船に入(い)る
地を巻く風 来(きた)りて忽(たちま)ち吹き散(さん)じ
望湖楼(ぼうころう)下(か)水(みず)天(てん)の如(ごと)し
【訳】
黒雲が墨をひっくりかえしたように広がってきたが、まだ山を隠してはいない。すると、真珠のような白い雨粒がばらばらと船のなかに入り込んできた。そのうち大地を巻き上げるような強い風が吹いてきて、たちまち雨雲を吹き散らす。望湖楼の下の湖水はふたたび大空の色をたたえて広がっている。
【解説】
本題は「六月二十七日望湖楼酔書五絶」。作者が37歳、杭州の通判(副知事)という役人だったときに、楼上で一杯やりながら詠んだ作です。望湖楼は杭州の鳳凰山にあって西湖(せいこ)を見下ろす高殿。蘇軾はこの湖をこよなく愛し、古代の美女・西施(せいし)にたとえて「西子湖」と詠んだことから「西湖」とよばれるようになりました。ほかならぬ蘇軾が「西湖」の名付け親だったというわけです。
西湖は、ベネツィアの商人マルコ・ポーロがその美しさを賞賛したことでも有名で、わが国では、かの松尾芭蕉が、『奥の細道』のなかで、松島の景色を洞庭湖・西湖に比べて恥じないと絶賛し、また「象潟(きさがた)」の章ではこの「飲湖上初晴後雨」を引用した句を詠んでいます。「象潟や雨に西施がねぶの花」。
七言絶句。「山・船・天」で韻を踏んでいます。〈翻墨〉は墨汁をひっくり返したような。〈未遮山〉は、まだ山を隠してはいない。〈白雨〉は激しいにわか雨。〈跳珠〉は白い宝石をまき散らすさま。〈入船〉は船に飛び込んでくる。〈巻地〉は大地を巻き上げるように。〈忽〉は、たちまち。〈吹散〉は吹き散らす。〈如天〉は大空のよう。
※西施(生没年未詳)
春秋時代の越の美女。越が呉と会稽で戦って敗れると、越王勾践(こうせん)は西施を呉王夫差(ふさ)に献上した。夫差は西施の容色に溺れ、その隙をついて越は呉を滅ぼしたと伝えられる。王昭君・貂蝉・楊貴妃を合わせて中国古代四大美女といわれる。「顰(ひそみ)に倣(なら)う」の諺でも有名。
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