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漢詩を読むがんばれ高校生!

春夜(しゅんや)

蘇軾

春宵一刻値千金
花有清香月有陰
歌管楼台声細細
鞦韆院落夜沈沈

春宵一刻(しゅんしょういっこく)値千金(あたいせんきん)
花に清香(せいこう)有り月に陰(かげ)有り
歌管(かかん)楼台(ろうだい)声(こえ)細細(さいさい)
鞦韆(しゅうせん)院落(いんらく)夜(よる)沈沈(ちんちん)

【訳】
 春の宵の一刻は千金に値するほど素晴らしい。花は清らかな香りを放ち、月はおぼろに霞んで見える。歌声や笛の音がにぎやかだった楼台も今は静まり、かすかな声が聞こえるだけで、乗る人もないぶらんこのある中庭に、夜はひっそりと更けていく。

【解説】
 冒頭の「春宵一刻値千金」の名句によって広く知られてきた詩で、王安石の『夜直』とともに春夜を詠じた詩の双璧と評されています。いわゆる集外の詩であるため制作時期や場所は不明ですが、ごく若いころの作だといわれています。

 このころの貴族の邸では寒食(かんしょく)という行事があり、陰暦3月の清明節の前後3日間ほど、火を使わず冷たいままの食べ物で食事をする風習があったといいます。昼間から高殿で歌や笛などの音楽を楽しみ、女官たちは蹴鞠(けまり)やぶらんこで遊んだようです。
 なお、ぶらんこはもともと中国の北方民族が作り出したもので、漢代には朝廷に取り入れられて皇帝の長寿を祈るものとされていました。それがやがて女官たちが清明節で遊ぶ道具になったといいます。「清明」は二十四節気の一つで、春分から15日目をいいます。今の中国では国民の祝日になっています。
 
 七言絶句。「金・陰・沈」で韻を踏んでいます。〈春宵〉は春の宵。〈一刻〉は、ごくわずかな時間。〈千金〉は、きわめて高価なこと。〈歌管〉は、歌声と管弦の調べ。〈楼台〉は、高く盛った土台の上に建てた二階以上の建物。高殿。〈細細〉は、かぼそい様。〈鞦韆〉は、ぶらんこ。もっぱら女子の遊びとされました。〈院落〉は、建物に囲まれた中庭。〈夜沈沈〉は夜が静かに更けていくさま。日本の慣例上から「しんしん」と読む場合もあります。

蘇軾(そしょく)

北宋の政治家・文学者。北宋随一の文人で、21歳で科挙に合格。その生涯は政争の渦中にあって波瀾に富むが、持ち前の明朗闊達さを失うことのなかった強靭で博大な人格は、多くの人々に敬慕された。詞・書・画にも一流の才能を発揮した。
湖州の知事であった44歳のとき、詩文によって朝政を誹謗したとして投獄され、死罪の危機に直面するが、皇帝の恩命を得て死を免れ、長江に沿う黄州に流罪となる。その地で労働のかたわら優れた作品を生み、東坡居士を号した。

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押 韻

押韻(おういん)とは、同じ音または類似の響きの漢字(音読み)を句の末尾に揃える決まり。韻を踏むことによって、文章がリズム感を持ち、読みやすく心に残りやすい詩となる。

古体詩もすべて押韻されていたが、近体詩では、基本的に偶数句末が韻を踏む。五言絶句なら2句と4句目。七言律詩なら2・4・6・8句。逆に奇数句末では韻を外さなくてはならない。なお七言詩の場合に限り、初句でも韻を踏むことがある。

ただし、日本語や現代中国語で発音しても同じ響きにならないものがあるが、時代の推移によって発音が変わったことによる。 

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