作家の五木寛之さんは、かつて「うつ病」に悩んだことがあるそうです。しかも二度。最初のうつのときに、楽しいことを毎日一つずつ日記に書いたそうです。それが良い効果を生んだのですが、二度目のうつの発作の時期には、なぜか全く効き目がなかったといいます。
そこで五木さんは、思い切って「悲しみの日記」を書くことにしました。一日に一行でよい、今日はこういうことで悲しかったと、毎日書く。わずか一行にとどめるのは、長続きさせるためです。五木さんは、これでずいぶん癒されたといいます。悲しいときは、悲しいことに浸る。本当に悲しいときは、他のことをしているヒマがないから、と。
アメリカでこんな研究が行われたそうです。多くの人に「人生でいちばん辛かった経験」を書いてもらいます。すると、ふつうの日記を書いてきた人たちに比べ、辛い経験を正直に吐露した人々はリウマチの痛みが軽くなり、アレルギーも低下したという結果が出たのです。ちなみにアメリカでは、ふつうの日記を書いた人たちと辛い経験を吐露した人たちと、ほぼ全員が回答を返してきたといいます。誰も拒否しなかったんですね。
同じ実験を日本でも行いました。喜んで研究に参加しますという人(あらかじめ研究内容は知らせていない)にアンケート用紙を送ったところ、ふつうの日記を書いた人たちは100%回答してきたのに、辛い経験を吐露する人たちはほぼ半分の回答率しかありませんでした。アメリカでの実験のときとはずいぶん違っていました。
辛い経験は思い出したくない。思い出してPTSD(心的外傷後ストレス障害)になるのではと不安になり、はじめから思い出すことさえしない。つまり闘う気力がない。残念ながら、日本ではそういう人たちが少なくなかったようです。でも、書いた人はかえって元気になったんです。
このお話、示唆に富んでいると思いませんか? なかなか難しいことだとは思うんですが、辛い気持ちや否定的な感情、それらを避けるのではなく、短くてもいいから思いのままに書いてみる、つまり、ちょっとでもいいから正面からきちんと相対する。そうした姿勢が、結局は自らを救うことにもなる、というんです。
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