王維
木末芙蓉花
山中発紅萼
澗戸寂無人
紛紛開且落
木末(ぼくまつ)芙蓉(ふよう)の花
山中(さんちゅう)紅萼(こうがく)を発(ひら)く
澗戸(かんこ)寂(せき)として人無く
紛紛(ふんぷん)として開き且(か)つ落(お)つ
【訳】
木末(こずえ)に咲いた蓮の花のように、コブシが山の中で赤い花をつけた。谷川に沿った家は静まり返っていて、人の気配はない。コブシの花は、人知れず、しきりに咲いては散っていく。
【解説】
王維は、晩年に長安郊外の輞川(もうせん)という地に別荘を構え、20の風光明媚な地を詩に詠みました(輞川集)。この詩はそのうちの一つで、谷川のせせらぎだけが聞こえる静寂の中、誰にも愛でられることのないコブシの花が、ただひたすらに、ひたむきに花を咲かせ散っていくという、素晴らしく印象的な絵画的な情景を詠じています。題の「辛夷塢」の「辛夷」はコブシ(またはモクレン、ハクモクレン)、「塢」は土手のことで、コブシが生えている土手の意。
五言絶句。「萼・落」で韻を踏んでいます。〈本末〉は、木の上の方の梢。〈芙蓉〉は蓮の花。起句は『楚辞』九歌の「芙蓉を木末に搴る」を踏まえています。〈紅萼〉は赤い花。〈澗戸〉は谷川沿いの家。〈寂無〉は、静かで~が無い。〈紛紛〉は、しきりに。多くのものが入り乱れるさま。このように同じ字を重ねた熟語を「重言(ちょうげん)」または「畳語(じょうご)」といいます。
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