名宰相として管仲(かんちゅう)と並び称される晏子(あんし)は、斉(せい)の宰相になると、乗用の馬車も四頭立てで屋根付きの豪華な馬車になり、それまで仕えてきた御者の服装もたいそう立派になりました。御者はそれを殊のほか喜び、あたかも自分が出世したかのように得意絶頂になりました。
そんなあるとき、御者の妻が、晏子が馬車に乗って外出するようすを、門の隙間からうかがっていました。馬車の先頭に立つ夫は意気揚々と通りを走り、その顔には道行く人々を見下すような尊大さが表れていました。
その夜、夫が帰宅すると、妻はいきなり離縁を申し出ました。驚いた夫が「いったい、どうしたことか」と尋ねると、妻は言いました。
「私は今日、晏子さまをお乗せして走るあなたを見て、恥ずかしくなりました。晏子さまは身長6尺にも達しませんが、身分は斉の国の宰相であり、名前は諸侯に知れ渡っています。それなのに、とても思慮深げで偉ぶったところは少しも見られません。ところがあなたは、身長は8尺ですが、人に仕える御者にすぎません。お偉い方の御者というだけで自分も偉いかのようにふんぞり返っているではありませんか。私は、そういう人にはついていきたくありません。ですから離縁を願い出たのです」
妻の言葉を聞いた夫は、自分の愚かさに気づき、心から妻に謝りました。そして、以後は自らの言動を慎み、謙虚にふるまうようになりました。晏子は、御者の態度が急に変化したのを訝しく思い、その理由を尋ねました。御者は妻に諫められたことを正直に答えました。晏子は大いに感心し、推薦して御者を大夫に取り立てました。
〜『史記』
【PR】
【PR】
一般常識のまとめ
就職試験対策などにお役立てください。 |
【PR】
【PR】