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哲学に親しむがんばれ高校生!

ヒューム

スコットランド・エディンバラ出身の哲学者(1711年~1776年)。ジョン・ロック、ジョージ・バークリーらに続き英語圏の経験論を代表する哲学者であり、歴史学者、政治哲学者でもある。
11歳でエディンバラ大学に入学、2年で中退し、自宅で哲学の研究に没頭、著述を手掛けるようになる。また、大学教授の職を得ようとしたが失敗、後年は、大使館秘書や国務次官なども務めた。生涯独身を通し子供もいなかった。

 「我思う、ゆえに我あり」として「私の存在は確実」という第一原理を示したデカルトでしたが、それに続く論理の展開の甘さに多くの批判が集まり、かえって多くの哲学が生み出されることになりました。「イギリス経験論」とよばれる哲学体系もその一つで、「人間の認識は知覚に基づく経験である」というのが基本的な考え方でした。ヒュームはこれを継承し、人間の本質や心の動きを「科学的に」解明しようとした哲学者です。
 
 まず彼は、人間の経験がどのようなプロセスを経て認識に至るかについて、知覚の対象である「印象(impression)」と「観念(idea)」の2つが結合することによって認識が形成されると説明します。「印象」とはその瞬間の刺激、「観念」とは過去の記憶や想像のことです。そして、一人ひとりの人間の精神は五感による「知覚の束」にすぎないのであって、それらによって当たり前のように信じられていた物事の「因果」を真っ向から否定します。
 
 たとえば「火は熱い」「石を投げて物を壊す」「指を切ると痛い」などのように疑いようのない因果関係についても、あくまで繰り返してきた経験によって人間が勝手に作ったものであり、2つの事象を、私たち人間の心が補い、原因と結果につなげて理解しているだけなのだと考えました。決して人間にあらかじめ備わった認識でもなく自然界の法則でもない、と。
 
 さらにヒュームは、現実には存在しない概念も、すべて「過去の有限の経験の組み合わせ」によって作られていると考え、それを「複合概念」とよびました。そして、人間の想像力はその範囲にとどまるとし、「神」の概念すらも、複合概念の一つだと主張したのです。これまでの哲学では、いかに現実的かつ合理的な立場であっても、神を否定するような人は、誰もいなかったのにです。

 そうしたヒュームの考えは、18世紀のヨーロッパでは、大きな衝撃となりました。哲学の常識をひっくり返すトンデモ説として、特に当時の宗教関係者からは、大きな批判を浴びました。彼がスコットランドのエディンバラ大学の教授として推薦された際も、強い反対運動が起き、教壇に立つことはできませんでした。
 
 かように、知識と道徳の基礎を破壊する懐疑論とみなされ攻撃を受けたヒュームの哲学でしたが、カントは彼の議論の意義を認め、「ヒュームの警告が、まさしく、はじめて私の独断的まどろみを破り、私の探究にまったく別の方向を与えたものであった」と述べています。

ヒュームの著作

  • 『人間本性論』
    1739年刊。「理性のみではいかなる行為も生み出し得ない」と主張。反響は小さかった。
  • 『人間知性の探求』
    1748年刊。 『人間本性論』第1巻をよりよく書き直したもの。因果論をさらに深め、自由と必然、奇跡や摂理などを新たに論じる。
  • 『道徳原理の探求』
    1751年刊。 道徳の基礎は理由ではなく感情にあると主張。功利主義の原点。
  • 『政治論集』
    1752年刊。 内外から評判を得た。
  • 『英国史』
    1754年刊。高い評価を得てベストセラーとなった。
  • 『宗教の自然史』
    1757年刊。宗教の起源と盛衰を自然史的に考察し、多神教と一神教の比較を通じて人間本性の深部を探る。

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ヒュームの言葉から

  • 私自身とよぶものに、もっとも奥深く入り込んでも、私が出会うのは、いつも、熱さや冷たさ、明るさや暗さ、愛や憎しみ、快や苦といった、ある特殊な知覚である。どんなときでも、知覚なしに私自身をとらえることはけっしてできず、また知覚以外の何かに気づくことはありえない。
  • 自我は、知覚の束にすぎない。
  • 新たに推論、もしくは、断定を少しも交えないで、過去の繰り返しから生じるものを、われわれはすべて「習慣」とよぶ。そこで、ある現在の印象に伴って起こる信念は、もっぽらこの習慣という起原に起因することを、確かな真理として定めてもよかろう。
  • 習慣は、反省するいとまも与えず作用する。
  • 心は一種の劇場だ。そこではいろいろな知覚が次々と現われる。去っては舞いもどり、いつのまにか消え、混じり合ってはかぎりなくさまざまな情勢や状況を作り出す。
  • 理性は情緒の単なる奴隷であり、そうであるべきであり、情緒に奉仕し、服従する以外の役目を望むことはけっしてできない。
  • 習慣は人間生活の最大の道案内である。
  • 深い悲しみと失望が怒りを生み、怒りが妬みを、妬みが恨みを、そして恨みが再び深い悲しみを生む。それらがすべての循環の完結するまで尽きることはない。
  • 友人の自由な会話は、いかなる慰めよりも私を喜ばせる。

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がんばれ高校生!

がんばる高校生のための文系の資料・問題集。

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経験論

認識の源泉のすべてを「経験」から説明しようという哲学思想で、知識の源泉を「理性」に求める合理論(理性主義)と対立する。17〜18世紀のベーコン、ロック、バークリー、ヒュームらの思想が代表的で、彼らは、人間は生まれながらに一定の観念をもっているといった考えを否定し、すべての知識は個別具体的な経験によってのみ与えられるものとした。特にイギリスにおいて発達したものを「イギリス経験論」と呼ぶ。また経験論は、経験・実験から法則を導くための一方法として帰納法を用いる。


(ロック)

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