キリスト教の母胎となったのが、ユダヤ教です。ユダヤ教は唯一神ヤハウェを信仰するイスラエル人の民俗宗教であり、神から特別の使命とめぐみを受けているのはイスラエル人であるという選民意識を有するものでした。そして、神とイスラエル人との契約を中心に編さんされたユダヤ教の聖典が『旧約聖書』です。彼らがこうした選民意識に基づく宗教を生み出した背景には、イスラエル人がたどってきた苦難の歴史があります。
イスラエル人の出自には諸説あるようですが、紀元前15世紀ごろに、パレスチナで牧畜に従事していたイスラエル人たちは、飢餓に見舞われエジプトに移住し、エジプト王から厚遇を得て栄えていました。しかし、王朝が代わると激しい迫害が始まり、ついには奴隷専用として扱われるようになり、悲惨な生活を強いられました。その後、モーセが中心となって、60万人ものイスラエル人がエジプトから脱出します(出エジプト)が、行く当てはなく、追っ手に怯えながらの放浪生活を続けます。
そうした苦難の中で生まれたのが、今のユダヤ教です。唯一絶対の神ヤハウェのみを信じ、その神から与えられた戒律を守る限り、やがて救世主(キリスト)が現れて救済されるであろう、という独自の宗教を作り出し、それを強く信じ込むようになったのです。
その信仰を支えに生き抜いた彼らは、ようやくパレスチナの地にたどり着き、古代イスラエル王国を建国します。しかし間もなく、王国は北のイスラエル王国と南のユダ王国に分裂し、さらに北はアッシリアに、南は新バビロニアに滅ぼされ、イスラエル人たちは再び奴隷として連れ去られてしまうのでした(バビロン捕囚)。
そんな彼らの前に現れたのが、イエスです。イエスはイスラエルの北東部の町ガリラヤの大工ヨハネの息子で、成人してのち、ヨルダン川のほとりで「終末の審判が近づいた。悔い改めて洗礼を受けよ」と熱心に説く予言者ヨハネから洗礼を授かります。そして、神の福音(喜ばしき知らせ)を伝えることに目覚め、宗教活動を開始しました。彼はユダヤ教の「戒律を守る者だけが救われる」という律法主義を否定し、神を信じる者はすべて救われる」と説きました。
イエスは、ガリラヤ湖ほとりの町に移り住み、会堂で説教を行いました。やがてイエスの名前は広く知られるようになり、多くの人々がイエスの教えを聞こうと集まってきました。その説教の中には、今も名言として知られる「汝の隣人を愛せよ」「汝の敵を愛せよ」「右の頬を打たれたら、左の頬を差し出せ」「下着を奪うものには、上着も与えよ」などの言葉がありました。
しかし、イエスの人気が下層の民衆の間で高まるにつれ、律法を頑なに守ってきたユダヤ教の指導者や保守派(パリサイ派)の人々は次第に反発心を強めるようになり、イエスを律法破りとして領主とローマの総督に訴えました。当局側も、イエスの動きが反ローマの蜂起につながるのではないかと恐れていました。イエスは自らの逮捕が近いことを知り、12人の弟子たちとともに「最後の晩餐」を開き、弟子の一人ユダの裏切りによって捕らえられてしまいました。
裁判の結果、有罪となったイエスは、都の外れのゴルゴタの丘で十字架にかけられ処刑されました。弟子たちはなすすべもなく逃げ隠れましたが、イエスの死後間もなく、イエスを見たという弟子たちが現れ、彼らはイエスの「復活」をイエスへの裏切りの赦しととらえ、そうして原始的なイエス信者の団体(原始教会)が生まれました。彼らは、昇天したイエスは神のもとで最後の審判を下す救世主(ギリシア語でキリスト)であると信じ、イエス・キリストと呼ぶようになりました。
キリスト教はイエスが生きている間に成立したのではなく、イエスはあくまでユダヤ教の枠内で改革を図ろうとし、それが受け入れられずに処刑されたのであり、彼の活動範囲もエルサレム周辺のイスラエル人社会に限定されていました。しかし、イエスの復活を信じる弟子(使徒)たちは各地で「イエスこそ真の救世主(キリスト)である」として彼の教えを熱心に説いてまわりました。
イエスの第一弟子で漁師出身のペテロは、キリスト教設立の中心となり、ローマでの伝道中に殉教、また元はパリサイ派のユダヤ教徒で後に回心したパウロは、キリスト教の理論的基礎を築くものの、ローマでの伝道中にネロの迫害にあって殉教しました。しかし、彼らのそうした命がけの活動により、民俗の枠を越えて信者はどんどん増えていきました。4世紀ごろにはローマ帝国の国教となり、やがて現在のキリスト教のような世界宗教へと発展していったのです。
なお、『新約聖書』とは、神とイエスによって結ばれた新しい契約について記された書で、4つの福音書と使徒たちの伝道の記録を含むキリスト教の聖典のことです。また、4つの福音書は「マタイ伝」「マルコ伝」「ルカ伝」「ヨハネ伝」からなっています。
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イエス・キリストの言葉から
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