杜牧
千里鶯啼緑映紅
水村山郭酒旗風
南朝四百八十寺
多少楼台煙雨中
千里(せんり)鶯(うぐいす)啼いて緑(みどり)紅(くれない)に映ず
水村(すいそん)山郭(さんかく)酒旗(しゅき)の風
南朝(なんちょう)四百八十寺(しひゃくはっしんじ)
多少の楼台(ろうだい)煙雨(えんう)の中(うち)
【訳】
千里四方のはるか彼方までウグイスの鳴き声が響き、紅の春の花が緑の木々に照り映えている。見渡せば、水辺の村にも山里の村にも、酒家の幟(のぼり)が風にはためいている。南朝時代に栄えた寺院の今なお多くの建物が、春の霧雨のなかにけむっている。
【解説】
晩唐屈指の詩人である杜朴の真骨頂は短詩形、とくに絶句にあるとされ、剛直ながらも平明で流暢な作風には、他の追随を許さないものがあります。この詩は、揚子江下流に位置する江南地方の春の眺めをうたった杜牧の代表作の一つで、漢文の教科書には必ずといってよいほど載っている詩です。ただし、前半が爽やかな晴れの晴景であるのに対し、後半は懐古の情を含む雨景に一転しており、単なる叙景詩というより、脳裏にある江南の春のイメージを包括して表現したものとみられています。従って、どこで詠んだのか、また制作時期も明らかではありません。
七言絶句。「紅・風・中」で韻を踏んでいます。〈江南〉は揚子江下流の江南地方。〈鶯〉はコウライウグイスで、日本のウグイスより大きく黄色い。〈緑映紅〉は柳の緑色と桃花の紅色が互いに照り映えているさま。〈水村〉は川沿いの村。〈山郭〉は山里の村。〈酒旗〉は酒屋の看板として立てられた青い幟。〈南朝〉は南北朝時代に健康(のちの南京)に都をおいた南の漢民族王朝。東晋・劉宋・斉・梁・陳を指します。〈四百八十寺〉の四百八十は数が多いことを表しており、〈八十寺〉の日本語の読みは、平仄を合わせるため「はっしんじ」と読ませてきました。別掲の杜朴作『村舎燕』にも「漢宮一百四十五」という表現があり、詩的世界のリアリティを高めるべく、詩句に効果的に数字を織り込む手法を用いています。〈多少〉は多くの。〈楼台〉は楼閣、高く盛った土台の上に建てられた二階以上の建物。〈煙雨〉は霧雨。
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