杜牧
垂鞭信馬行
数里未鶏鳴
林下帯残夢
葉飛時忽驚
霜凝孤鶴迥
月暁遠山横
僮僕休辞険
時平路復平
鞭(むち)を垂れ馬に信(まか)せて行く
数里(すうり) 未(いま)だ鶏鳴(けいめい)ならず
林下(りんか)に 残夢(ざんむ)を帯(お)び
葉(は)飛びて時(とき)に忽(たちま)ち驚く
霜(しも)凝(こご)りて孤鶴(こかく)迥(はる)かに
月(つき)暁(あかつき)にして 遠山(えんざん)横たわる
僮僕(どうぼく)よ険(けん)を辞(じ)するを休(や)めよ
時(とき)平(たい)らかなれば 路(みち)も復(ま)た平らかなり
【訳】
鞭を垂れ、馬にゆだねてゆっくりと進む。数里を行くも、未だ夜明けの鶏の声もない。うとうとしながら木立の路を行けば、落葉の散るかすかな音に驚かされる。霜は白く凍てつき、遥かかなたに鶴が一羽、有明の月が傾く辺り、遠くに山が横たわる。僮僕たちよ、路が険しいと嘆くのを止めよ。平らかな世に、路は当然平らかなはずだ。
【解説】
840年の冬、杜朴は、江州(江西省)にいる弟に会うために、従者を連れて長安を出立しました。弟は目を患い、手術をしても治らなかったため、見舞いとともに今後のことを相談するためでもありました。陸路、武関を越えて南へ向かう行程であり、この詩は、その道中で詠まれたものです。この時、杜朴の妻は身籠っており、冬の旅でもあったので、妻は長安に残しての旅立ちでした。
五言律詩。「鳴・驚・横・平」で韻を踏んでいます。〈残夢〉は、明け方近く、うとうとしながら見続ける夢。〈僮僕〉は従者のことで、主従関係にある使用人。道の険しさに弱音をはいているのを励ましていますが、不安にさなまれる自分自身を励ましているようでもあります。
なお、この詩を踏まえて松尾芭蕉が詠んだ「馬に寝て残夢月遠し茶のけぶり」という句があります。
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