JR(西日本)の車内放送の仕方にも、試行錯誤というか、いろいろと紆余曲折があるようです。いつだったか、電車の発車に際し、それまで「扉が閉まります。ご注意ください」と言っていたのを、「扉を閉めます。・・・」に改めた時期があります。誰かが「扉が勝手に閉まるわけがない。『扉が閉まります』という言い方はおかしい!」などとクレームをつけたのでしょうか。
しかし、しばらくたつとまた元の言い方に戻ってしまいましたよ。やっぱり、これはこれで変だよねーということになったのでしょうか。たしかに、聞き慣れないせいもありましたが、「扉を閉めます」だと、なんとなく威圧的な感じがして、ちょっと好きにはなれなかったですね。勝手に閉まるわけではないけど、「閉まります」でいいんじゃないかと。
こういうの、実は日本語が得意とする婉曲表現?の一つだと思うんです。かの金田一晴彦先生がおっしゃっていた話ですが、「お茶がはいりました」という言い方がありますね。仕事や作業で疲れてきたかなという時に、お茶にしましょうといって台所に立った人が、わざわざお茶を入れてくれたのにもかかわらず、「いれました」ではなく「はいりました」と言う。まるで勝手に起きたことのように。
でも、「はいりました」には、恩着せがましさや押しつけがましさなど微塵もなく、むしろ「そろそろ休憩なさってはいかがですか」という誘(いざな)いといたわりの気持ちが込められているようにも感じられます。「いれました」では、当たり前すぎて何の情緒も愛想もない!
「扉が閉まります」は、お茶が「はいりました」というのと全く同じではないにしても、似たような細やかな心遣いから発した言い方なんだろうと思います。長く使われ続けてきたのには、何か理由がある。くれぐれも、その言葉のあやといいますか、もっている雰囲気を大切にしていただきたいと思う次第です。
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