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「扉が閉まります」の車内アナウンス

 JR(西日本)の車内放送の仕方にも、試行錯誤というか、いろいろと紆余曲折があるようです。いつだったか、電車の発車に際し、それまで「扉が閉まります。ご注意ください」と言っていたのを、「扉を閉めます。・・・」に改めた時期があります。誰かが「扉が勝手に閉まるわけがない。『扉が閉まります』という言い方はおかしい!」などとクレームをつけたのでしょうか。

 しかし、しばらくたつとまた元の言い方に戻ってしまいましたよ。やっぱり、これはこれで変だよねーということになったのでしょうか。たしかに、聞き慣れないせいもありましたが、「扉を閉めます」だと、なんとなく威圧的な感じがして、ちょっと好きにはなれなかったですね。勝手に閉まるわけではないけど、「閉まります」でいいんじゃないかと。

 こういうの、実は日本語が得意とする婉曲表現?の一つだと思うんです。かの金田一晴彦先生がおっしゃっていた話ですが、「お茶がはいりました」という言い方がありますね。仕事や作業で疲れてきたかなという時に、お茶にしましょうといって台所に立った人が、わざわざお茶を入れてくれたのにもかかわらず、「いれました」ではなく「はいりました」と言う。まるで勝手に起きたことのように。

 でも、「はいりました」には、恩着せがましさや押しつけがましさなど微塵もなく、むしろ「そろそろ休憩なさってはいかがですか」という誘(いざな)いといたわりの気持ちが込められているようにも感じられます。「いれました」では、当たり前すぎて何の情緒も愛想もない!

 「扉が閉まります」は、お茶が「はいりました」というのと全く同じではないにしても、似たような細やかな心遣いから発した言い方なんだろうと思います。長く使われ続けてきたのには、何か理由がある。くれぐれも、その言葉のあやといいますか、もっている雰囲気を大切にしていただきたいと思う次第です。

小泉元首相のマナー

 元CAさんによる、小泉純一郎元首相にまつわるエピソードです。ある時、機内の乗客の中に小泉さんがいて、その小泉さんの「ある振る舞い」がとても気になったそうです。

 食事のとき、小泉さんは、さりげなくCAさんに背を向けて割り箸を割ったのです。彼女は、どうしてわざわざ壁を向くのだろう?と不思議に思いましたが、やがてその理由が分かり、小泉さんに大いに好感を抱くようになりました。

 「割る/割れる」という言葉は「忌み言葉」の一つとされています。「割る」という行為も、相手に不吉な予感を抱かせることがあります。なもんで、昔は、相手に見えないように割り箸を割るという風習があったんですね。

 小泉さんが壁を向いて割り箸を割ったのは、そういうマナーを知っていて、周りに対する思いやりの行為だったんです。
 

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入道雲にのって
夏休みはいってしまった
「サヨナラ」のかわりに
素晴らしい夕立をふりまいて

けさ 空はまっさお
木々の葉の一枚一枚が
あたらしい光とあいさつをかわしている

だがキミ! 夏休みよ
もう一度 もどってこないかな
忘れものをとりにさ

迷まよい子のセミ
さびしそうな麦わら帽子
それから ぼくの耳に
くっついて離れない波の音

〜『忘れもの』高田敏子

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