杜甫
胡馬大宛名
鋒稜痩骨成
竹批雙耳峻
風入四蹄軽
所向無空闊
眞堪託死生
驍騰有如此
萬里可横行
胡馬(こば)大宛(だいえん)の名(な)
鋒稜(ほうりょう)痩骨(そうこつ)成(な)る
竹(たけ)批(そ)いで双耳(そうじ)峻(するど)く
風(かぜ)入(い)って四蹄(してい)軽(かろ)し
向(むか)う所(ところ)空闊(くうかつ)無(な)く
真(しん)に死生(しせい)を託(たく)するに堪(た)えたり
驍騰(ぎょうとう)此(かく)の如(ごと)き有(あ)り
万里(ばんり)横行(おうこう)すべし
【訳】
この胡の馬は大宛の名に恥じない良馬であり、その馬体は引き締まり、骨格は矛のように鋭い。両耳は竹を削いだように尖っており、風を吸い込むかのように駆ける四つの蹄(ひづめ)の何と軽やかなこと。
どこへ向かおうと無限の空間が無いかのように俊敏に走り、まことに生死を託するに足りる名馬だ。勇ましくて強いこの馬に乗れば、どんなに遠くても自由に駆け回ることができよう。
【解説】
杜甫30歳代前半の作。友人である房兵曹(ぼうへいそう)が所有していた馬を讃えて詠った詩です。房兵曹の「房」は姓で、名は不明。「兵曹」は軍の官名。戦乱が続く世にあっては、馬の善し悪しは人の命に直結するものでした。この詩では、自分の命を預けることのできる良馬の条件について具体的に詠まれており、その特性を骨格と耳に捉えています。杜甫は馬好きでも知られ、この詩のほかにも馬を題材にした詩が幾つかあります。
五言律詩。「名・成・軽・生・行」で韻を踏んでいます。〈胡馬〉は西域の胡(えびす)の馬、外国産の馬。〈大宛〉は西域(中央アジアのフェルガナ盆地)にあった国名で、古くから良馬の産地として有名。〈鋒稜〉は矛先のとがった先端。〈痩骨〉は肉が引き締まって骨ばった体。〈竹批〉は竹を削いだように、耳が尖っている様子。「批」は削る意。〈雙耳〉は両耳。〈所向〉はどこへ行こうと。〈空闊〉は無限に広がる空間。〈驍騰〉は馬が勇ましく強いさま。〈横行〉は自由に駆け回ること。
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