杜甫
国破山河在
城春草木深
感時花濺涙
恨別鳥驚心
烽火連三月
家書抵万金
白頭掻短
渾欲不勝簪
国(くに)破(やぶ)れて山河(さんが)在(あ)り
城(しろ)春(はる)にして草木(そうもく)深し
時に感じては花にも涙(なみだ)を濺(そそ)ぎ
別れを恨(うら)んでは鳥にも心を驚(おどろ)かす
烽火(ほうか)三月(さんげつ)に連(つら)なり
家書(かしょ)万金(ばんきん)に抵(あた)る
白頭(はくとう)掻(か)けば更(さら)に短く
渾(すべ)て簪(しん)に勝(た)えざらんと欲(ほっ)す
【訳】
都は破壊されてしまったというのに、山河は今もここにある。城内は春を迎えたけれど草木だけが勢いよく生い茂っている。この多難な時代に心痛み、花を見ても涙がこぼれ、家族との別れを嘆いては、鳥のさえずりにも胸が騒ぐ。戦を告げる烽火(のろし)は三か月も続き、家族からの手紙は万金に値する。白くなった頭を掻けばいっそう薄くなり、かぶり物の簪(かんざし)も挿せなくなりそうだ。
【解説】
755年に安史の乱が起こり、玄宗は蜀へ逃れ、長安の都は荒れ果ててしまいました。杜甫も敵中に軟禁され、都の春景色を遠望しながら、自らの不遇をも嘆きつつ詠んだ詩とされます。757年、46歳の作で、題の「春望」は春の眺め、「唐詩三百首」に所収されています。冒頭の「国破れて山河在り」の句がつとに有名で、松尾芭蕉の有名な句「夏草やつわものどもが夢の跡」は、この詩を下敷きにしています。芭蕉は、杜甫の詩集をいつも携えて旅をしていたといいます。
五言律詩。「深・心・金・簪」で韻を踏んでいます。〈国〉は長安の都、〈城〉は城壁で囲まれた長安の町を指します。〈烽火〉はのろし、ここでは戦い。〈三月〉は陰暦三月と解する説や、「三」は不特定多数を示す語でもあることから「長い間」と解する説があります。〈家書〉は家族からの手紙。〈抵〉は相当する。〈渾〉は全く。〈簪〉は髪に冠を固定するピンのこと。
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