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漢詩を読むがんばれ高校生!

倦夜(けんや)

杜甫

竹涼侵臥内
野月満庭隅
重露成涓滴
稀星乍有無
暗飛蛍自照
水宿鳥相呼
萬事干戈裏
空悲清夜徂

竹涼(ちくりょう)は臥内(がだい)を侵(おか)し
野月(やげつ)は庭隅(ていぐう)に満(み)つ
重露(ちょうろ)涓滴(けんてき)を成(な)し
稀星(きせい)乍(たちま)ちに有無(うむ)
暗きに飛ぶ蛍(ほたる)は自(みずか)ら照らし
水に宿(やど)る鳥は相(あい)呼ぶ
万事(ばんじ)は干戈(かんか)の裏(うち)
空(むな)しく悲(かな)しむ清夜(せいや)の徂(ゆ)くを

【訳】
 竹林の涼しさが寝室の中にまで入ってきて、野の月の光は庭の隅々まで満ちあふれている。竹の葉末に重ねっていく露はしずくとなって流れ落ち、まばらに出た星は輝いたり見えなくなったりしている。暗闇を飛ぶ蛍は自分の周りだけをそっと照らし、川に宿る鳥は互いに呼び合っている。
 しかし、これらすべてのものは、戦争の中にあるのだ。私は、清らかな秋の夜がふけていくのを空しく悲しむ。

【解説】
 「倦夜」はけだるく寝つかれない夜。「清夜」「蛍」の語があるので、季節は秋です。53歳の杜甫が、戦乱を逃れ、成都の草堂で作った詩とされます。各句ごとに竹・月・露・星・蛍・鳥と歌われ、自分の周りにあるのは平和な自然だが、それを取り巻いているのは不幸な戦争である。それをどうすることもできない自分がいる。それをむなしく悲しむばかりである、と嘆いています。蛍と鳥は、どちらも杜甫自身を象徴しているのでしょうか。
 
 五言律詩。「隅・無・呼・徂」で韻を踏んでいます。〈竹涼〉は竹林の涼しさ。〈臥内〉は寝床の中。〈重露〉は、竹の葉末に露が重なっておりること。〈涓滴〉はしずく。〈稀星〉は、まばらに出た星。〈有無〉は、ここでは星が輝いたり見えなくなったりすること。〈自照〉は、自分の周りだけを照らすこと。〈干戈〉は戦争。〈清夜〉は清らかな夜。

杜甫(とほ)

盛唐の詩人(712年~770年)。同時代の李白と並び、中国文学史上最高の存在とされ、「詩聖」と称される。少年時代から詩をよくしたが科挙には及第できず、44歳でようやく官職を得たものの、貧困と不遇をかこち続けた。わが国の遣唐使の阿倍仲麻呂と同じ年に亡くなった。

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律 詩

唐代に確立された近体詩のうち、律詩とは、一編が八句(八行)からなる詩で、各句が五文字の「五言律詩」と各句が七文字の「七言律詩」がある。初めから 2句ずつをまとめ、首聯、頷聯、頸聯、尾聯と呼ぶ。ほかに十句、十二句からなる俳律もある。

律詩には「対句」のルールがあり、形や意味のうえで似ている二つの句を連続して配置する。字数が同じで、文法上の構成が同じとき、その二つの句の関係を「対句」という。第三句と第四句、第五句と第六句が対句となる。 

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