杜甫
好雨知時節
当春乃発生
随風潜入夜
潤物細無声
野径雲倶黒
江船火獨明
暁看紅湿處
花重錦官城
好雨(こうう)時節(じせつ)を知り
春に当(あた)って乃(すなわ)ち発生(はっせい)す
風に随(したが)いて潜(ひそや)かに夜に入(い)り
物を潤(うるお)して細(こまや)かにして声(こえ)無し
野径(やけい)雲(くも)は倶(とも)に黒く
江船(こうせん)火は独(ひと)り明らかなり
暁(あかつき)に紅(くれない)の湿(しめ)れる処(ところ)を看(み)れば
花は錦官城(きんかんじょう)に重からん
【訳】
好い雨というのは、降るべき時節を心得ていて、春が来るとすぐに降り始める。風に吹かれてひっそりと夜に降り始め、細やかに音もたてず、万物を潤す。野の小道は雲と同様に黒々としており、川を行く船の灯だけが明々と見える。明け方、赤くしっとりと霞んだところを見ると、錦官城の花も雨に濡れて重たげである。
【解説】
杜甫50歳、成都の郊外で家族とともにのんびり暮らしていたころの作品で、長い杜甫の放浪生活の中ではもっとも落ち着いていた時期だったといいます。杜甫は30歳の時に洛陽で役人の娘と結婚し家庭を持ちました。彼は生涯この妻を大切にし、妻もまた不遇であり続けた夫から離れることはありませんでした。この詩には、時宜を得て降る春雨を万物への恵みだと喜び、成都の町がしっとりと潤った赤い花で覆われるようにとの作者の祈りが感じられます。
五言律詩。「生・声・明・城」で韻を踏んでいます。〈好雨〉は好ましい雨、気の利いた雨。〈当春〉は春が来ると。〈発生〉は万物が生ずること。ここでは雨が降り始めること。〈潜入夜〉は、人が寝入っている夜に誰にも知られることなく雨が降っているさま。〈潤物〉は万物を潤す。〈野径〉は野原の小道。〈江船〉は川に浮かぶ船。〈火〉は漁り火。〈花重〉は雨に濡れそぼった花が重そうに垂れている様子。〈錦官城〉は四川省の成都の別称。錦官は錦を扱う役人のことで、このころの成都は錦の産地でした。
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