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聴き疲れする?ステレオ音

 スピーカーは、リスナーと左右のスピーカーで正三角形が描かれるように設置するのが基本かつ最良とされます。それによって臨場感あふれる音像、音場が得られ、気持ちよくのびやかに音楽が鳴り響き、刺激的で心地よい緊張感に浸れる環境を実現してくれるのであります。そして、これとは別に「良い音」の要素について別記事で申し上げ、その中で「聴き疲れしない」というのも必須の条件として加えさせていただきました。

 しかしながら、どんなに正しい位置で、またどんなに「良い音」で聴いたとしても、オーディオによるステレオ音というのは、全く別の理由から、実は本来的、必然的に「聴き疲れ」しやすいものだと思っています。なぜなら、ステレオ音は、決して自然の音と同じではないからです。そもそもステレオ音なるものは、普通には自然界に存在せず、あくまで人為的に合成されたものであり、それによってリスナーに、ある種の錯覚を生じさせているに過ぎないからです。

 本来、自然の音や楽器の生音などは、一点の音源から発生し、そのまま単純に耳に届きます。モノラル録音も一個のマイクで録音し、単純に一個のスピーカーで再生します。ところがステレオとなると、元々一つの音源から出た音を二つのマイクで録音し、左右の音量の違いやわずかな時間差を生じさせて再生します。私たちの脳に同時に伝わったこれら二つの音信号は、脳内処理によって臨場感と広がりのある音として認識されますが、本来の音とは程遠いものです。いわば「幻の音」を脳が都合よく作り出しているのであって、極端な言い方をすれば「幻聴」のようなものです。

 そうした不自然ともいえる音の脳内での処理作業は、時間が経つにつれ次第に疲れを生じ、ひいては不快な気持ちを起こさせてしまいます。悲しいかな、音に敏感な人であればあるほど、またその情報量が多ければ多いほど、そのような感覚は如実に生ずるであろうと思います。オーディオを愛する人にとって身も蓋もないような話ですが、かといって、ステレオの意義と素晴らしさを否定するつもりなど毛頭ありません。何であれ、ステレオによって刺激的で臨場感あふれる音が得られるのは、間違いのない事実です。

 そして幸いなことに、この「聴き疲れ」を克服する方法がないではありません。それは、正三角形の頂点から外側にズレて聴くことです。こうすると、片側のスピーカーの音をより多く聴くことになりますが、かといって音場の立体感は失われはしません。ややもったいない聴き方ではあるものの、その代わり音の「合成」の度合いはうんと薄まります。実は私も、時おりそうした聴き方をしています。部屋の片隅にPCを配置したデスクがあるものですから、そこに座ってPCを触りながら、いわば「ながらリスニング」をしています。「ながら」という影響もあるかもしれませんが、聴き疲れはうんとしにくくなります。ちょっとしんどいと思う時や、何気なく音楽に浸りたいなと思う時などは、こうした聴き方がよいかもしれません。

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