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漢詩を読むがんばれ高校生!

重題(重ねて題す)

白居易

日高睡足猶慵起
小閣重衾不怕寒
遺愛寺鐘欹枕聴
香炉峰雪撥簾看
匡廬便是逃名地
司馬仍為送老官
心泰身寧是帰処
故鄉何独在長安

日(ひ)高く睡(ねむ)り足れるも猶(な)お起くるに慵(ものう)し
小閣(しょうかく)に衾(ふすま)を重ねて寒さを怕(おそ)れず
遺愛寺(いあいじ)の鐘は枕(まくら)を欹(そばだ)てて聴き
香炉峯(こうろほう)の雪は簾(すだれ)を撥(かか)げて看(み)る
匡廬(きょうろ)は便(すなわ)ち是(こ)れ名を逃(のが)るるの地(ち)
司馬(しば)は仍(な)お老いを送るの官(かん)たり
心泰(こころやす)く身も寧(やす)きは是(こ)れ帰する処(ところ)
故郷(こきょう)は何ぞ独(ひと)り長安(ちょうあん)にのみ在(あ)らんや

【訳】
 日は高くのぼり、眠りは足りたのに、なかなか起きる気分になれない。小さな二階家で、布団を重ねているので、寒さの心配はない。遺愛寺の鐘の音が聞こえてくるので、枕を立てて耳を傾け、香炉峰の見事な雪を、簾(すだれ)を上げて眺めている。
 世間の虚しい名利から逃れて暮らすには、この廬山は最適の地だ。そうなると、この司馬という職位は、私のような老人には適している。心も穏やかで、身体も楽だから、これが落ち着くべき地なのかと思う。故郷は、何も長安だけとは限らない。

【解説】
 白居易が江州(江西省)に司馬として左遷されていたとき、46歳の作です。廬山(ろざん)の香炉峰のふもとに草堂をいとなみ、その壁に書きつけて題した4首の詩のうちの3首目です。詩題に「重題」とあるのは同じ題で詠むという意味。この詩の眼目は第5、6句にあり、早朝出勤が義務だった朝廷勤めから解放され、朝寝の時間を楽しめる今の自身の境遇に安心立命を求めようとしています。

 また、「香炉峯の雪は簾を撥げて看る」の一句から、清少納言の『枕草子』にある逸話(下記)を思い出す人も多いことでしょう。
 
―― 雪のいと高う降りたるを例ならず御格子まゐりて、炭櫃に火おこして、物語などして集まりさぶらうに、「少納言よ 香炉峰の雪いかならむ」と仰せらるれば、御格子上げさせて、御簾を高く上げたれば、笑はせたまふ。――
 
 七言律詩。「寒・看・官・安」で韻を踏んでいます。〈小閣〉は小さな二階家。〈衾〉は夜具、掛け布団。〈不怕〉は心配がない意。〈遺愛寺〉は香炉峰の北にあった寺。〈欹枕〉は枕に頭をつけたまま。頭を起こしているとの説も。〈香炉峰〉は廬山の北の峰。〈撥簾〉は簾を上げる。〈匡廬〉は廬山の別名。周の時代に仙人の匡族が移り住んだことから。〈逃名地〉は、世間の名声を求めず、隠棲する地。〈司馬〉は州の長官の補佐官。〈送老官〉は、老年を過ごすのにふさわしい官職。〈帰処〉は帰るべき場所、安住の地。

白居易(はくきょい)

中唐の政治家・詩人(772年~846年)。字により「白楽天」とよばれることが多い。地方官吏の次男として生まれ、口もきけぬ幼時、すでに「之」と「無」との字を弁別し、5歳のころから作詩を学び、16歳で早くも人を驚かす詩才をひらめかしたという。29歳で「進士」という科挙の中でも最も難しい試験に合格。李白・杜甫・韓愈とともに「李杜韓白」と並称された。日本には白居易が生きていた時代から彼の作品が伝わり、貴族の間で人気を博した。

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平 仄

漢字の韻により「平声」「上声」「去声」「入声」の四声に区別され、さらに平坦な「平声」を「平音」、残り三つを「仄音」に分類したものを「平仄」という。

「平仄」は、近体詩の形式の中でもっとも基本的なルールであり、五言詩では各句の2字目と4字目の平仄が違っていなければならず、七言詩では各句の2字目と4字目の平仄と、4字目と6字目の平仄が違っていなければならない。
 

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