白居易
有官慵不選
有田慵不農
屋穿慵不葺
衣裂慵不縫
有酒慵不酌
無異樽長空
有琴慵不彈
亦與無絃同
家人告飯盡
欲炊慵不舂
親朋寄書至
欲読慵開封
甞聞嵆叔夜
一生在慵中
弾琴復鍛鐵
比我未為慵
官(かん)有(あ)れども慵(よう)にして選ばれず
田(た)有(あ)れども慵(よう)にして農(のう)せず
屋(やね)穿(うが)てども慵(よう)にして葺(ふ)かず
衣(ころも)裂(さ)くれども慵(よう)にして縫(ぬ)わず
酒(さけ)有(あ)れども慵(よう)にして酌(く)まず
樽(たる)の長(つね)に空(むな)しきに異(こと)なる無(な)し
琴(こと)有(あ)れども慵(よう)にして弾(ひ)かず
亦(ま)た絃(げん)無(な)きに同じ
家人(かじん)飯(はん)の 尽(つ)くるを告(つ)ぐ
炊(かし)がんと欲(ほっ)するも慵(よう)にして 舂(つ)かず
親朋(しんぽう)書(しょ)を寄せて至(いた)る
読まんと欲(ほっ)するも封(ふう)を開くに慵(よう)なり
甞(かつ)聞く嵆叔夜(けいしゅくや)
一生(いっしょう)慵中(ようちゅう)に在(あ)りと
琴(こと)を弾(ひ)き復(ま)た鉄(てつ)を鍛(きた)う
我(わ)れに比(ひ)すれば未(いま)だ慵(よう)と為(な)さず
【訳】
役職はあるのだが、ものぐさなのでそれに選ばれない。田畑はあるのだが、ものぐさなので耕さない。屋根に穴が開いても、ものぐさなので葺いたりしない。衣服が敗れても、ものぐさなので繕わない。酒はあるのだが、酌むのが面倒くさい。酒樽がいつも空なのと違いがない。琴はあるのだが、ものぐさなので弾かない。陶淵明(とうえんめい)の琴に弦が無かったのと同じことだ。家の者が、米が無くなったという。炊きたいが、米をつくのも面倒くさい。身内や友人から手紙が来る。読みたいけれど、ものぐさなので封を開かない。嵆康(けいこう)は一生ものぐさだったという。しかし、琴を弾き、鍛冶仕事で鉄を鍛えていたのだから、私に比べたらまだものぐさとはいえない。
【解説】
〈詠慵〉は、ものぐささ、面倒くささを詠う意。この詩は、白居易が43歳、亡くなった母親の喪に服しているときの作です。服喪の期間は官職につけず、何もしてはいけないため、そのもどかしさを「慵にして選ばれず」というふうに自嘲的に表現しています。また、「慵」の字が繰り返し使われており、退屈へのたまらない気持ちが強調されています。
五言俳律。俳律は律詩の六句以上に長くのびた詩型。〈嵆叔夜〉は三国時代の魏の文人・嵆康で、字(あざな)は叔夜。魏の宗室から妻をめとったものの、あえて仕官を求めず自適の生活を送り、琴の名人とされ、「竹林の七賢明」の一人に数えられています。そんな嵆康よりさらに自分はものぐさだと言っています。
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