白居易
美人與我別
留鏡在匣中
自從花顏去
秋水無芙蓉
經年不開匣
紅埃覆青銅
今朝一拂拭
自照憔悴容
照罷重惆悵
背有雙盤龍
美人(びじん)我れと別る
鏡を留(とど)めて匣中(こうちゅう)に在り
花の顔(かんばせ)の去りてより
秋水(しゅうすい)に芙蓉(ふよう)無し
年を経ても匣(はこ)を開かず
紅(くれない)の埃(ほこり)は青銅(せいどう)を覆(おお)う
今朝(こんちょう)一たび払拭(ふっしょく)して
自ら憔悴(しょうすい)の容(すがた)
照らし罷(おわ)りて重ねて惆悵(ちゅうちょう)す
背に双(つか)いの盤(わだかま)れる龍(りゅう)有り
【訳】
かわいい君とは別れてしまったが、そのときにくれた鏡を、今も箱の中にしまっている。花のような君の顔が見られなくなってから、秋の冷たい池に芙蓉の花がないのと同じように寂しい。
長い間、その箱を開けなかったので、赤いほこりが青銅の鏡を覆っていた。今朝、ほこりを払って、自分の疲れ果てた姿を映してみた。
見終わると悲しみが重なってくる。鏡の背には、つがいの龍が仲よくからみあっている。
【解説】
30代になった白居易が、熱き青春時代を懐かしんで詠んだ詩です。進士の試験に合格する前、彼には若い白居易には湘霊(しょうれい)という恋人がいました。二人が別れてしまった経緯は分かりませんが、彼女が残してくれた鏡を見て思いにふけっています。すでに結婚して数年たっているわけですが、だからといって決して元の恋人を忘れられないのが「男」の性(さが)のようです。形式は五言古詩。
なお、紀元前の『詩経』以来、男女や夫婦の愛情や、亡くなった妻への愛をうたった詩はありましたが、白居易のこの詩のように自らの恋愛経験をうたうのはこの時代に始まったとされます。
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