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漢詩を読むがんばれ高校生!

王昭君(おうしょうくん)

白居易

滿面胡沙滿鬢風
眉銷残黛臉銷紅
愁苦辛勤顦顇盡
如今卻似畫圖中

面(おもて)に満(み)つる胡沙(こさ)鬢(びん)に満(み)つる風(かぜ)
眉(まゆ)は残黛(ざんたい)銷(き)え臉(かお)は紅(べに)銷(き)ゆ
愁苦(しゅうく)辛勤(しんぎん)して顦顇(しょうすい)し尽(つ)くれば
如今(いま)ぞ却(かえ)って画図(がと)の(うち)に似(に)たり

【訳】
 漢を離れてはるばる胡(えびす)の地に来て、顔は砂漠の砂にまみれ、ほつれた髪が異国の風に翻る。眉を描いた薄墨も、頬にさした紅も消えようとしている。悲しみや苦しみのために痩せ衰えてしまい、今の私の姿は、あの醜女の似顔絵のようになってしまった。

【解説】
 この詩は楽府題から来ており、2連作の第1首にあたります。白居易17歳の時の作で、匈奴に嫁がされた王昭君が悲しみにくれる様をうたっています。王昭君は漢の元帝の時の宮女で、元帝は宮廷画家に宮女の似顔絵を描かせ、その中から気に入った者を寵愛しようとしました。宮女たちはこぞって賄賂を贈り、自らを美しく描かせましたが、王昭君だけは贈りませんでした。そのため王昭君は絶世の美女でありながら醜女に描かれ、元帝の目に留まることはありませんでした。折しも匈奴の王から宮女の一人を妻にと所望され、元帝は似顔絵の中から最も醜い女を匈奴へ贈ろうとしました。その結果、王昭君が選ばれ、別れの挨拶に進み出た王昭君を見て、元帝は仰天、大いに悔やんだものの、今さら撤回するわけにはいきません。その後の調査で画家の不正が発覚し、死刑に処したといいます。
 周知の題材であるため、白居易は趣向を変え、後半の2句にあるように、悲しみと苦しみのためにやつれ果て、今はあの醜女の似顔絵のようになってしまったと言っています。まことに奇抜な着想であり、若き白居易の非凡さがうかがえる作品です。
 
 七言絶句。「風・紅・中」で韻を踏んでいます。〈胡沙〉の「胡」は北方の異民族が住む地域。「沙」は砂漠。〈鬢〉は顔の左右側面の髪の毛。〈銷〉は消える。〈残黛〉は色褪せた眉墨。〈臉〉は顔。〈愁苦〉は思い悩んで苦しむ。〈辛勤〉は苦労して勤める。〈顦顇〉はやつれ果てる。〈如今〉は今。〈却〉は逆に、反対に。〈画図〉は、ここでは画家に醜く描かれた似顔絵のこと。

白居易(はくきょい)

中唐の政治家・詩人(772年~846年)。字により「白楽天」とよばれることが多い。地方官吏の次男として生まれ、口もきけぬ幼時、すでに「之」と「無」との字を弁別し、5歳のころから作詩を学び、16歳で早くも人を驚かす詩才をひらめかしたという。29歳で「進士」という科挙の中でも最も難しい試験に合格。李白・杜甫・韓愈とともに「李杜韓白」と並称された。日本には白居易が生きていた時代から彼の作品が伝わり、貴族の間で人気を博した。

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