白居易
蝸牛角上争何事
石火光中寄此身
随富随貧且歓楽
不開口笑是痴人
蝸牛角上(かぎゅうかくじょう)何事(なにごと)をか争う
石火光中(せっかこうちゅう)此(こ)の身を寄(よ)す
富(とみ)に随(したが)い貧(ひん)に随いて且(しばら)く歓楽(かんらく)せん
口を開いて笑わざるは是(こ)れ痴人(ちじん)
【訳】
蝸牛の角の上のような小さな世界で、いったい何を争っているのか。あたかも火打石の火花のような、一瞬のはかないこの世の中に身を置いているというのに。富める者は富めるなりに、貧しい者は貧しいなりに、しばらく楽しく暮らそうではないか。むっつりと押し黙っているのは、愚かな人である。
【解説】
白居易が58歳ごろの作品で、5首連作の第2首です。中央の官職を幾つか経て地方職への左遷も経験してきた白居易が、50代半ばに病を患って洛陽へ移住し、閑職に従事。その頃に作られた詩です。人間社会でのさまざまな摩擦や葛藤と向き合ってきた中で、それらに汲々とするのではなく、むしろ鷹揚とした気持ちで包み込もうとする精神へ昇華が窺える作品と捉えられています。白居易の人生指針は「知足安分」、つまり欲をかかず足りていることを知り、置かれている状況に安んじることであったといわれます。白居易の明るい性格が窺える作品です。
七言絶句。「身・人」で韻を踏んでいます。「蝸牛角上の争い」は、戦国時代の『荘子』則陽篇に見える寓話に由来し、蝸牛(カタツムリ)の右の角の上に触氏(しょくし)、左に蛮氏(ばんし)という国があって互いに争っていたという、大局的見地から見てどうでもよいつまらない争いのたとえ。〈石火〉は石を打ちつけて出る火花で、きわめて短いたとえ。〈且〉は、とりあえず。〈開口笑〉は口を開けて愉快に笑う。〈痴人〉は愚か者。
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