白居易
五歳優游同過日
一朝消散似浮雲
琴詩酒友皆抛我
雪月花時最憶君
幾度聴鶏歌白日
亦曾騎馬詠紅裙
呉娘暮雨蕭蕭曲
自別江南更不聞
五歳(ごさい)の優游(ゆうゆう)同(とも)に日を過ごし
一朝(いっちょう)消散(しょうさん)して浮雲(ふうん)に似(に)たり
琴詩酒(きんししゅ)の友(とも)皆(み)な我(わ)れを抛(なげう)ち
雪月花(せつげつか)の時(とき)最(もっと)も君を憶(おも)う
幾度(いくたび)か鶏(けい)を聴き白日(はくじつ)を歌い
亦(ま)た曾(かつ)て馬に騎(の)りて紅裙(こうくん)を詠(えい)ず
呉娘(ごじょう) 暮雨(ぼう) 蕭蕭(しょうしょう)の曲(きょく)
江南(こうなん)に別れてより更(さら)に聞かず
【訳】
五年間も一緒にのんびりと穏やかな日を過ごしたのに、ある日、それはまるで浮雲のように消え散ってしまった。共に琴を奏で、詩を吟じ、酒を飲んだ友は、皆私を離れてしまったが、雪や月や花が美しい時は、いちばんに君のことを思う。
幾度「黄鶏」の歌を聴き、「白日」の曲を歌ったことだろうか。馬に乗って、赤い裾の衣を着た美人を詩に詠じたこともあった。呉二娘の「暮雨蕭蕭」の曲は、君と江南で別れてから、一度も聞いていない。
【解説】
白居易が56歳のころの作。題名の「殷協律」は、江南地方の杭州・蘇州での部下であり遊び友だちでもあった人のことで、一緒に過ごし楽しかった日々を懐かしんで長安で作った詩です。また、晩年の白居易は、詩中にある「琴・詩・酒」を三友として過ごしたといいます。なお、すでに日本語となって、四季の代表的風物をあらわす「雪月花」の語は、この詩が典拠とされます。余談ですが、かの宝塚歌劇団の花組・月組・雪組の名付けはここから来ているといいます。
七言律詩。「雲・君・裙・聞」で韻を踏んでいます。〈殷協律〉は、音楽を司る官である協律郎の殷堯藩(いんぎょうはん)。〈五歳の優游〉の五歳は年齢ではなく歳月のことで、五年間楽しく遊んだ意味。〈聴鶏歌白日〉の「鶏(黄鶏)」と「白日」は作者が杭州にいた頃に聴いた歌の名前。〈紅裙〉は紅い裾の衣服。〈呉娘〉は、呉二娘とも呼ばれた江南の歌姫のことで、〈暮雨蕭蕭〉(夕暮に雨が蕭々と降り、夫は帰ってこない)という歌を歌ったといいます。
【PR】
→目次へ
がんばれ高校生!
がんばる高校生のための文系の資料・問題集。 |