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漢詩を読むがんばれ高校生!

贈内子(内子に贈る)

白居易

白髪方興歎
青娥亦伴愁
寒衣補燈下
小女戲牀頭
闇澹屏帷故
淒涼枕席秋
貧中有等級
猶勝嫁黔婁

白髪(はくはつ)方(まさ)に歎(なげ)きを興(おこ)し
青娥(せいが)亦(ま)た愁(うれ)いに伴(ともな)う
寒(ふゆ)の衣(ころも)を燈下(とうか)に補(つくろ)い
小(おさな)き女(むすめ)は 牀頭(しょうとう)に戲(たわむ)る
闇澹(あんたん)として屏帷(へいい)故(ふ)り
淒涼(せいりょう)として枕席(ちんせき)秋なり
貧しき中にも等級(とうきゅう)有り
猶(な)お黔婁(けんろう)に嫁(とつ)ぐに勝(まさ)れり

【訳】
 白髪頭の私がこの境遇を歎くと、若く美しい妻もいっしょに嘆いてくれる。灯火の下で冬着を繕(つくろ)い、幼い娘は寝台のそばで遊んでいる。薄暗い室内の家具は古くなり、夜具のあたりには、もの寂しい秋の気配がやって来た。だが、貧乏にも程度の差があって、あの黔婁(けんろう)の妻になるよりはましであろう。

【解説】
 白居易は、37歳の時に、友人だった楊汝士(ようじょし)の従妹と結婚しました。10歳以上も年の離れた若い妻だったようですが、白居易が亡くなるまでの38年間、二人は連れ添います。この詩は、結婚して11年目になったときの作で、江州でのわびしい左遷生活にも関わらず、献身的に尽くしてくれている妻への感謝の気持ちをうたっています。
 
 五言律詩。「愁・頭・秋・婁」で韻を踏んでいます。〈内子〉は妻のこと。〈青娥〉は青く美しい眉。転じて若い美女の意。〈寒衣〉は冬の衣服。〈小女〉は2年前に生まれた幼い娘のこと。〈牀頭〉は寝台のそば。〈屏帷〉は衝立(ついたて)、帳(とばり)。〈淒涼〉は冷え冷えとわびしいさま。〈枕席〉は枕と敷布。〈等級〉は程度の差。〈黔婁〉は春秋時代の斉の高士で、諸侯からたびたび招聘されたものの応じることなく、清貧に甘んじて生涯を終えたといいます。ここでは、そんな黔婁を持ち出して冗談を言い、妻を慰めているとみえます。

 なお、貧者の代名詞とされる黔婁は、死んだとき、掛布団が短すぎて身体を覆うことができず、ある人が布団を斜めにかければ覆うことができると言うと、黔婁の妻は、正しく覆って足りない方がましだと、承知しなかったという逸話が残っています。

白居易(はくきょい)

中唐の政治家・詩人(772年~846年)。字により「白楽天」とよばれることが多い。地方官吏の次男として生まれ、口もきけぬ幼時、すでに「之」と「無」との字を弁別し、5歳のころから作詩を学び、16歳で早くも人を驚かす詩才をひらめかしたという。29歳で「進士」という科挙の中でも最も難しい試験に合格。李白・杜甫・韓愈とともに「李杜韓白」と並称された。日本には白居易が生きていた時代から彼の作品が伝わり、貴族の間で人気を博した。

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律 詩

唐代に確立された近体詩のうち、律詩とは、一編が八句(八行)からなる詩で、各句が五文字の「五言律詩」と各句が七文字の「七言律詩」がある。初めから 2句ずつをまとめ、首聯、頷聯、頸聯、尾聯と呼ぶ。ほかに十句、十二句からなる俳律もある。

律詩には「対句」のルールがあり、形や意味のうえで似ている二つの句を連続して配置する。字数が同じで、文法上の構成が同じとき、その二つの句の関係を「対句」という。第三句と第四句、第五句と第六句が対句となる。 

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