李白
牀前看月光
疑是地上霜
挙頭望山月
低頭思故郷
牀前(しょうぜん)月光(げっこう)を看(み)る
疑(うたが)うらくは是(これ)地上の霜(しも)かと
頭(こうべ)を挙(あ)げて山月(さんげつ)を望(のぞ)み
頭(こうべ)を低(た)れて故郷(こきょう)を思う
【訳】
寝台の前で月の光を見る。あまりに白くて、地面に降りた霜のように思う。顔を挙げて山にかかる月をながめていると、故郷への思いがつのり、ひとりでに頭が垂れてくる。
【解説】
李白が31歳のときの作です。25歳で故郷を出て長江流域を放浪しつつあった李白が、あたり一面に月光がさす秋の冷え冷えとした夜に、その山月をながめながら遠い故郷を偲んでいます。第1・2句で見たままの風景を描写し、そこから作者の心の動きへと自然に流れ、叙景と抒情を一体化させた極めつきの名詩とされます。前半2句は無心、後半2句は有心(うしん)の句であるといわれます。
「望郷の詩」として日本においても中国においても有名ですが、中国の教科書などでは、1句目の「看月光」が「明月光」に、3句目の「望山月」が「望明月」になっています。この相違の理由は、日本の教科書が江戸時代に流行した明代の『唐詩選』から取っているのに対して、中国では清代に作られた『唐詩三百首』によっているからだとされます。なお、月光を見て、望郷の念や悲愁の感情をいだく表現は、ほかにも多くの漢詩で見られます。
五言絶句。「光・霜・郷」で韻を踏んでいます。「対句」は絶句では要求されませんが、この詩では3句と4句が対句になっており、「挙頭」と「低頭」
、「望」と「思」、「山月」と「故郷」がそれぞれ対になっています。題の〈静夜思〉は、静かな夜の思いの意。〈牀前〉は寝台の前。〈疑是〉は、~かと疑う、もしかしたら~ではないか。〈霜〉は、漢詩では空気中に漂う冷気のことで、それが地面に降りたと驚いています。〈挙頭〉は、頭をあげて遠くを見ること。〈山月〉は山の上に出ている月。漢詩の世界では、月は通常「満月」を指します。〈低頭〉は、首をうなだれて物思いに沈むさま。
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