李白
君歌楊叛児
妾勧新豊酒
何許最関人
烏啼白門柳
烏啼隱楊花
君酔留妾家
博山炉中沈香火
双煙一気凌紫霞
君は歌わん 楊叛児(ようはんじ)
妾(わらわ)は勧めん 新豊(しんぼう)の酒(さけ)
何許(いずく)ぞ 最も人を関(とざ)すは
烏(からす)の啼(な)く 白門(はくもん)の柳(やなぎ)
烏(からす)は啼(な)いて 楊(やなぎ)の花に隱(かく)れ
君は酔(よ)うて 妾(わらわ)が家に留(とど)まらん
博山(はくざん)炉中(ろちゅう) 沈香(じんこう)の火(ひ)
双煙(そうえん)一気(いっき) 紫霞(しか)を凌(しの)がん
【訳】
あなたが「楊叛児」の歌を歌うなら、私は新豊のお酒をおつぎしましょう。それにいちばんぴったりの秘密の場所はどこだというなら、それは、烏が鳴いている金陵の西門の、あの柳の木の根元。烏は誰にも見られずに、ハコヤナギの花に隠れて鳴いています。あなたは、酔ったら私の家にそのまま泊まってくださいな。博山炉には沈香を焚いて、二筋の煙が一つになって結ばれます。それは夕焼雲の高さをはるかにしのいで仙境にまで行き渡ります。
【解説】
女性の積極的な男性への誘いかけを歌った詩です。「楊叛児」は、宮中の巫女の息子の楊旻(ようびん)が何太公(かたいこう)に寵愛されるようになったのを風刺して作られた俗謡のことです。そうした古歌の一つに「楊叛曲」という男女の情愛を歌った歌があり、李白がそれを題材にこの詩を作ったとされます。「楊叛曲」の内容も女性が男性を誘うもので、香炉を女性に、沈香を男性にたとえて、燃える二人の仲は離れられないと歌っています。
「酒・柳」「花・家・霞」で韻を踏んでいます。〈妾〉は謙譲の意を込めた女性の一人称。〈新豊〉は、陝西省驪山華清宮近く(長安の東北)にある酒の名産地。〈何許〉は、どこ、どんな。〈関人〉は気にかかる、心配する。〈烏啼〉はカラスが鳴く。〈白門〉は金陵(現・南京)の別称。〈楊花〉はハコヤナギの花。風に吹かれていくので浮気性の女性を暗示しています。〈妾家〉は私の家。〈博山炉〉は香炉の名。博山は山東省博山県の東南の峡谷名で、男女の情愛を暗示するといいます。〈沈香〉は香木の名。水に沈むのでこう呼ばれます。〈双煙〉は香炉の側面から上がる二筋の煙。〈一気〉は、一つとなる。〈紫霞〉は紫雲。夕焼け雲よりも遥かに高い雲。
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