李白
舊苑荒臺楊柳新
菱歌淸唱不勝春
只今惟有西江月
曾照呉王宮裏人
旧苑(きゆうえん)荒台(こうだい)楊柳(ようりゅう)新(あら)たなり
菱歌(りょうか)清唱(せいしょう)春(はる)に勝(た)えず
只今(ただいま)惟(た)だ西江(せいこう)の月(つき)のみ有(あ)って
曾(かつ)て照(て)らす呉王宮裏(ごおうきゅうり)の人(ひと)
【訳】
古びた庭園、荒れた高台。そのような中にも、柳だけは毎年新たに芽吹いている。菱の実を取りながら乙女たちが歌う清らかな歌声を聴けば、やるせない春の感傷に耐えられなくなる。今も昔も変わらないものはただ一つ、西江にのぼる月だけだ。かつてこの月は、呉王の宮殿にいた、あの絶世の美女西施(せいし)を照らしていたのだ。
【解説】
李白が、呉王夫差(ふさ)と西施(せいし)ゆかりの姑蘇台(こそだい)を訪ねて作った詩で、727年の作とされます。かつて華やかだった宮殿の荒れ果てた様子と人生の無常が詠われており、芭蕉の「夏草やつわものどもの夢の跡」に通じる詩とも言われています。唐の時代に生きた李白からすれば、呉と越が争った時代は、遥か昔、まさにつわものどもの夢の跡なのです。呉と越の戦いは、有名な「呉越同舟」「臥薪嘗胆」などの故事成語とともに壮大な歴史ドラマを生みました。
七言絶句。「新・春・人」で韻を踏んでいます。〈蘇台〉は、春秋時代末、呉王夫差が築いた姑蘇台のことで、現在の江蘇省蘇州の姑蘇山上にある宮殿跡。〈覧古〉は古跡を見て昔を偲ぶこと。〈舊苑〉は昔からある古い庭園。〈楊柳〉はヤナギの総称。〈菱歌〉は娘たちが菱の実を取りながら歌う民謡。〈清唱〉は澄んだ声で歌うこと。〈不勝春〉は春の感傷に耐えられない。〈西江〉は姑蘇台の西を流れる川。〈呉王宮裏人〉の呉王の宮中に仕え、絶世の美女とうたわれた西施のこと。
※西施(生没年未詳)
春秋時代の越の美女。越が呉と会稽で戦って敗れると、越王勾践(こうせん)は西施を呉王夫差(ふさ)に献上した。夫差は西施の容色に溺れ、その隙をついて越は呉を滅ぼしたと伝えられる。王昭君・貂蝉・楊貴妃を合わせて中国古代四大美女といわれる。「顰(ひそみ)に倣(なら)う」の諺でも有名。
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