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分からない人には分からない

 オーディオの音質改善に向けての飽くなき試み。スピーカーやアンプなどの基本的な機材の選択に始まって、セッティング、部屋の環境づくり、各種アクセサリーの導入・・・。まーいろいろあるわけですが、いずれにせよ、しっかりとした目的意識をもって臨むことが大切です。ちょっとした工夫で音が格段によくなったときの喜びはひとしおです。たとえばスピーカーの内振りの角度によってガラッと音の聴こえ方が変わったりしますもんね。そうした成功体験が次の試みに繋がる。

 一方で、オーディオ環境改善の努力とは別に、「自分磨き」も決して疎かにしてはならないと思うところです。オーディオを聴く側の感覚や感性が錆ついていては、まさに片手落ちというか、決してよい音作りはできないはず。コンサートで生の音に感動する、優秀なソフトに出会う、さらに音に直結するものばかりじゃなく、美しい景色を眺める、素敵な絵画を鑑賞する、良質な本を読む、魅力的な異性と会話する・・・。そうしたさまざまな感動や刺激の積み重ねによって自分の感覚や感性の総合力を高め、バランスを整える。よい音や素敵な音楽をキャッチするために不可欠なことと思っています。

 だから、誰もがすぐに音の違いが分かるわけではないし、一朝一夕にできるようになることでもありません。思い起こせば私も、若いころの聴覚そのものはうんと鋭敏だったはずなのに、今思うと笑えるほど感じ方は鈍感で、違いの何たるかも分かっていなかった。単に「低音が迫力あるなー」くらいの程度。あれから経験と努力を重ね、今では少なからずレベルアップしたと思いますが、それも所詮は自分自身のなかでの比較に過ぎません。上には上があるし、また、明確なゴールもないでしょう。

 ですからねー、たとえばある人がさまざまに音質改善を図り、音の違いを感じようとしている努力に対して、あれはナンセンスだとか、オカルトだとか、プラシーボ効果だと決め付けるのは、実のところ滑稽で愚かなことだと思うんです。それは自らの鈍感さを告白しているようなもの。音の違いが分からない人には、どう説明したって分からないし、説明のしようもない。

 例えば、ケーブルの交換と音の変化に関して、ケーブル別に諸々の測定数値を示して、変わるはずがないと主張する向きがあります。なるほど数値的にはそうかもしれません。しかし、それは数値に表せる部分についてのみ言っているのであって、数値だけでは感じえない部分だってある。自動車の例でいいますと、馬力もトルクも全く同じ数値のクルマだったら、どの車種も全く同じ乗り味かというと、決してそうではありません。また、たとえ同じ車種であっても、足回りとかボディ剛性とか、さまざまな改良を加えることで格段に変化してきます。そういうところはなかなか数値で表せるものではありませんし、むしろそちらの方で違いを感じることが多い。
 
 オーディオだって同じだと思うんです。数値のほかに感覚でしか分からないところが多大にある。しかもその感覚の程度は人によって全然違います。また、しょせんは主観的なものですから、仮にオカルトやプラシーボであったとしても、そういうのを感じ取る感覚があってもいいし、むしろすごいことだと思います。要するに、もう一度いいます、「分からない人には、絶対に分からない」。かくいう私も、いま分かることも昔だったら絶対に分からなかっただろうし、今もなお分からないことがあるはずです。自今以後も、日々鍛錬していく所存です。

ピアニッシモ!

 オーディオのチェックポイントはいろいろありますが、私はピアニッシモの音の鳴り方にはけっこう神経を尖らせております。さまざまな楽器の音のピアニッシモ、ピアニッシモよりさらに弱い「ピアニッシッシモ」、また、音が静かに消えていくときに、いかに美しく聴こえるか。

 オーディオ機器の性能を表す指標としては、ご承知のとおり、音の高低の範囲を示す「周波数特性」、音の大小の範囲を示す「ダイナミックレンジ」、信号と雑音の比を示す「SN比」などがあります。そして、それらの性能が大きく真価を発揮するのが他ならぬピアニッシモの場面だろうと考えています。それも、ただ聴こえればいいのではなく、ピアニッシモといえどもそれなりにきちんと響く必要がある。要求範囲はまことに広くなってきます。

 あるピアニストさんによるお話では、演奏するホールによってピアノの弾き方も変わってくるといいます。ごくふつうのホールだと、音が聴衆の耳に届くまでにバリアのようなものがあるのを感じるので、それを突き抜ける弾き方をするそうです。ところが良いホールだと、サロンで弾くようにやわらかく演奏できる。いったん天井に上った音が一度に降ってくるように自然な音楽を聴いてもらうことができる、演奏者と聴衆がまったく同じ音を聴ける、って。そういう優れたホールでは、本当に美しいピアニッシモの音色が聴けるのだと思います。

 何を神経質で細かいことを言っているのだと思われるかもしれませんが、やはりそういうところがクラシック演奏家の拘りであり、連れてファンの拘りになっているんです。クラシック音楽ファンが同時にヘビーなオーディオ・ファンになる所以でもあります。私だって他のジャンルの音楽を聴くときはまるっきり違いますよ。たとえばポップスとか歌謡曲、演歌などを聴いているときに「ピアニッシモが・・・」とか「音が消え入る時の美しさが・・・」なんてこれっぽちも思いませんもん。
 


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周波数特性

スピーカーへの入力を一定にした状態で、周波数(※)を変化させた時、出力がどのように変化するかを表した指標。Y軸に出力レベル(dB)、X軸に周波数の目盛り(対数)を取った曲線をグラフに表現する。

オーディオ機器における周波数特性の表示は、人の可聴領域である10Hzから20,000Hzの間で表すことが多く、この出力レベルが一定のものをフラットと呼び、理想的な波形とされる。しかしながら現実には、低音・高音領域の全域を均一に再生することは難しく、よりフラットに近く再生できるスピーカーが高級機として販売される。

ただし、周波数特性だけでは、トランジェント(音の立ち上がりや消え際)や、指向性(スピーカー中心からずれたときの音質の変化)などの重要な要素を計測することができないため、周波数特性がフラットだからといって、ただちに高音質であるとは言い難い面がある。

※周波数・・・波動や振動が、単位時間当たりに繰り返される回数。

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