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哲学に親しむがんばれ高校生!

アダム・スミス

18世紀後半のイギリスの哲学者、倫理学者、経済学者(1723年~1790年)。グラスゴー大学、オックスフォード大学で学び、後にグラスゴー大学の教授、総長となる。古典派経済学の祖といわれる。重商主義的保護政策を批判し、自由放任主義の立場にたつ自由主義的経済学を主張し、国富の源泉を労働一般に求め、産業革命の理論的基礎づけを行なった。著書の『国富論』は経済学を初めて科学的に体系づけた古典。ほかに『道徳感情論』などがある。

 アダム・スミス以前のヨーロッパにおける経済思想では、重商主義と重農主義が対立していました。重商主義とは、ヨーロッパの絶対王政国家が採っていた政策で、金銀財宝が富であると考え、自国の輸出産業(商工業)を重視して保護育成し、貿易差額によって国富を増大させようとするものです。一方、重農主義とは、18世紀後半のフランスが採っていた経済政策で、農業が国富を生み出す源泉であるとし、商工業の発展は、農業生産により原材料が供給されることによって初めて実現するというものです。

 そのころのイギリスは、名誉革命によって議会制度・政党政治の体制が築き上げられ、おもに領主や産業資本家を中心とした立憲国家となっていましたが、その経済政策は重商主義によるものでした。インドや東南アジアの物産の輸入と植民活動に従事する東インド会社などの特許会社を保護する貿易を経済政策の柱としていました。
 
 そんななか、アダム・スミスは『国富論』を発表、重商主義を批判し、経済政策では国家の統制や介入を排除し、市場原理に任せるべきであると主張したのです。そして、労働こそが価値を生み出す源泉であり、分業などにより労働の効率を高めることによって冨が増大する。生産性を高めるためには市場での自由競争が必要であり、それが社会全体の進歩の原動力になると考えました。これが自由主義経済思想です。

 しかしそれでは、各人による勝手な利己心の追求に任せることになり、ひいては経済秩序を破壊する恐れがある、だから国家が保護や介入をすべきだという批判が起きます。これに対してアダム・スミスは、「市場経済において、各個人が自己の利益を追求すれば、結果として社会全体において適切な資源配分が達成される」のだと説明します。

 つまり、市場には、需要と供給の関係によって価格が自動的に決まってくる市場原理(自動調節機能)があるのだから、経済秩序はおのずと整う。さらに、一般的には悪徳と思われる「利己心」についても、その発揮によって勤勉や節約などの徳が生まれ、さらに健康や財産、地位や名誉などに配慮しようとする向上心につながる。そのように、「見えざる手」によって知らず知らずのうちに公共の利益に寄与すると考えたのです。だから、「欲望のままに自分の利益を追求せよ」と。
 
 従って、アダム・スミスは、政府の役割はできるだけ小さくあるべきだと主張しました(「小さな政府」論)。ただし、政府は何もせず、すべて市場に任せればよいと言っているわけではありません。彼は、政府は次の3つに関して責任を果たさなければならないとしています。すなわち、国防、司法行政、公共設備の3つです。
 
 このようなアダム・スミスの考えは、イギリス産業革命の時期と重なったこともあり広く受け入れられ、資本主義社会の大いなる発展をもたらしました。また経済思想の歴史においては、近代経済学の基礎となる古典派経済学を体系づけたことから、アダム・スミスは「古典派経済学」の祖と称されるようになりました。

アダム・スミスの著作

  • 『道徳感情論』
    1759年刊。今日のような秩序だった社会において人々は法の下で安心して安全な生活を送ることができるが、その根幹には人間のどのような本性があるのだろうかを問い、個人の心に「義務」「道徳」を確立し、新しい社会と人のあり方を探求。
  • 『国富論』
    1776年刊。『諸国民の富』とも訳される。全5編からなり、個人の利潤追求に基づく労働が「見えざる手」に導かれて秩序を生み、国の富を増大するという理論から、重商主義を批判し、自由放任主義を唱えた。資本主義社会を最初に体系的に把握した書で、経済学史上最大の古典とされる。

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アダム・スミスの言葉から

  • 国家は光り輝く金属の蓄積によって豊かになるのではない、そんなのは子供じみている。国家が豊かになるのはその国民の経済的な繁栄によってなのだ。
  • 国家を最下級の野蛮状態から最高度の富裕に達せしめるには、平和と軽い税金と、正義の寛大な執行の他に不可欠なものはほとんどない。
  • 社会に属する人々の大部分が貧しく不幸であれば、その社会が幸福で繁栄した社会となることは決してない。
  • 最小の努力をもって最大の欲望を満たすことが人間の経済行為の基礎原理である。
  • 競合社会では、個の野心が公の利益である。
  • 社会の利益を増進しようと思い込んでいる場合よりも、自分自身の利益を追求する方が、はるかに有効に社会の利益を増進することがしばしばある。
  • 国民の富とはその国民の年々の労働の生産物であり,これを改善する最大の要因は分業である。
  • 我々が食事をできるのは、肉屋や酒屋やパン屋の主人が博愛心を発揮するからではなく、自分の利益を追求するからである。
  • 荷物担ぎと哲学者は、もともとは番犬と猟犬ほどにも違わない。両者の間に深淵を開いたのは「分業」である。
  • 人間は仕事がないと、健康を損なうばかりでなく精神的にも退廃する。
  • 世の中のために働いていると言っている人間で、本当に世の中のために働いている人間を見たことはない。
  • 人間とは取り引きをする動物なり。犬は骨を交換せず。
  • もともと荷物かつぎの人と哲学者とは、番犬と猟犬ほどにも違わない。両者の間に深淵を開いたのは「分業」である。
  • 健康で、借金がなくて、しっかりした意識があるという幸福以外に、いったい何が必要だというのだ。
  • 常に快活であることほど優美なことはない。
  • あなたは最初に自分自身について知らなければならない。自分自身について知っている者は、自分の殻を破ることができるし、自らの態度を傍観者のように観察できる。
  • 水ほど役に立つものはないが、水では何も買えない。反対にダイヤモンドそれ自体は何の使用価値も持たないが、交換すると相当の量のものを手に入れることができる。
  • 群衆の一員でいることは、まったく気楽なことだ。
  • 犯罪者への慈悲は、罪のない人々への無慈悲である。
  • 大道のそばでひなたぼっこをしている乞食の有する安心感は、もろもろの王様が欲しても得られないものである。
  • 利己心に勝る鞭はない。
  • 科学は熱狂や迷信の毒に対する素晴らしい解毒剤である。

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がんばる高校生のための文系の資料・問題集。

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ケインズから新自由主義へ

アダム・スミスの説く資本主義の自由競争は、やがて先進諸国による植民地獲得や勢力圏争いから帝国主義に転化し、一方で社会主義理論と厳しく対立することとなった。

20世紀には資本主義による際限のない競争が世界恐慌という経済不安に繋がったことから、古典派経済学の自由放任主義を改め、国家の介入・規制による雇用政策や社会福祉などによって修正する修正資本主義を説くケインズ学派が有力となり、戦前のニューディール政策や戦後のイギリス労働党の福祉政策に大きな影響を与えた。

ところが1960年代になるとケインズ主義的な経済政策は「大きな政府」となって財政を破綻させ、増税が経済成長を阻害するという弊害をまねき、ふたたび市場原理を優先して政府の規制や介入を極力排除するべきであるという新自由主義経済学が登場した。


(ケインズ)

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