本文へスキップ

バランス感覚が大事

 「オーディオ・マニアは音ばかり聴いて音楽を聴いていない」との批判を耳にすることがあります。本来、オーディオは音楽を楽しむ手段であるはずなのに、興味や話題の中心はやたら機器や周辺機器のことばかり、本当に心から音楽を楽しんでいるのか?と。

 そういえば、かの長岡鉄男さんもおっしゃっていたのが「オーディオ・マニアも音楽を聴く。しかし、音楽そのものを聴いているのではなく、音楽を通して、コンポの凄さを確認しようとしているのである。この場合、音楽は目的ではなく、コンポに磨きをかけ、箔を付けるための手段と考えられる」って。

 うーん、確かにそういう面はあるとは思います。しかし、音楽ファン、オーディオ・ファンの端くれとしてちょっと反論させていただくと、そういうの、むしろ当たり前といっていい行為ではありますまいか。音楽を通してでなければ、いったい他の何を手段としてコンポに磨きをかけるのでしょう。それに「音質を気にせずに音楽を聴くなんて有り得ない」との主張も成り立ちます(ジャンルにもよりますが)。

 何となれば、プロの演奏家は、自らが奏でる一音一音の鳴り方、聴こえ方にたいへんな拘りを持っているわけです。以前、クラシック・ギター演奏家の村治佳織さんがコンサートに臨むときのお話をなさってて、ステージ上の椅子の位置のわずか10pの違いにも気を遣っているといいます。そんな些細なことで、音の聴こえ方が変わってくるって。であるならば、聴く側も同じく「拘り」を持って聴きたい。だからコンポに磨きをかける。それが誠実で真摯な鑑賞態度だと思う次第です。

 ただ、それが高じ過ぎてか、あまりに特定のことに拘っているマニアの方がいらっしゃるのも事実でして、趣味の世界とはいえ、適度なバランス感覚が大事と思っています。ただでさえオーディオ趣味では「拘わる」べき部分が多いですから、あることのみに注力するあまり、全体のバランスを欠いてしまわないよう注意しなくてはなりません。始めのうちは何をどうやったらいいか分からなくても、やり出したら色んなところが気になってきますからね。もうホントにキリがなくなる。

 SNSなどを拝見していますと、けっこうヘビーな人にほど、ずいぶん偏っているのでは?と感じるケースが少なからず見受けられます。たとえば、せっかく高価なスピーカーを買い揃えている、あるいは自作で凝ったスピーカーを数多く作っているのに、肝心の設置が和室の畳の上に直置きだったり、積み木みたいに重なり合っていたりとか、部屋の中がぐちゃぐちゃでリスニング環境に無頓着だったりとか。

 あるいは、次から次にケーブルを取っ替え引っ替え、長くしたり短くしたりしているけど、結局どういう音を求めているのか定まらず、ご自身でも訳が分からなくなっているのでは?と心配したくなるような人。いかにケーブルが重要とはいえ、まさにナントカ地獄に陥っている感じです。

 「他人のことはほっとけ!」と怒られそうですが、いや確かに所詮は趣味ですからね、何にどう拘ろうと自由ですし、他人に迷惑をかけるわけじゃない。本人が楽しんでいるのだから、とやかく言われる筋合いは全くないのです。でもですねー、ついつい残念に思ってしまうんです。それだけのお金やエネルギーがあるのなら・・・と。勿体ないなー、と。けっきょく確かな正解やゴールがないからそうなってしまうのでしょうが、いろんな場面において、やっぱりバランス感覚は大事です。そういう私自身もけっこう拘る性質なので、変に偏ってしまわないよう心がけています。

【PR】

やさしいクラシック音楽案内

クラシック音楽は、人生についていろいろと語りかけてくれる、そして、人生の栄養源になってくれる・・・。


目次へ ↑このページの先頭へ